ラックスマン LIFES 回路解析(1)
アキュフェーズANCC回路解析から時間が経ってしまいましたが、本日はラックスマン独自回路のLIFESを解析していきたいと思います。
ODNFとLIFESの違いは、ざっくりトランジスタ極性の違いということのようです。 現在入手できるJFETは、Nchのほうが優れたものが多いという理由かららしいです。ODNFの発表当時1997年頃はPch JFETでも性能の良いものがありました。
以下は簡略化したブロック図です。
主アンプ(非差動アンプ):ゲイン K
副アンプ(差動アンプ):フィードバック抵抗を1/K になるように設定し、誤差成分(ひずみとノイズ)だけを抽出して主アンプの出力に加算してひずみをキャンセルする回路です。これがODNF(Only Distortion Negative Feedback )の由来になっていました。
シミュレーションの全体像をお見せします。ピンクで囲った部分は主アンプで、緑で囲った部分が副アンプ。
まず、主アンプ側の動作を見るために副アンプを改造してDC動作だけにしています。青で囲った部分です。
+入力をGNDへ落とす
-入力にLPF(DCのみ帰還)
差動出力にもLPF(少し波が乗ったので)
いわゆるDCサーボにして直流安定性を確保します。 ブロック図にすると以下のようになります。
■主アンプの動作
以下が主アンプ部を切り出した回路です。 主アンプはエミッタ接地回路2段構成です。
これら定数は私が勝手に考えたものですのでラックスマンのアンプの定数ではありません。ご了承ください。
出力ポイント(OUT)は回路上だともう少し上に側に書かれていますが画面で見切れてしまうため手書きで移動しました。
まる(V)は副アンプ差動回路によるDCサーボの可変電圧源と考えてください。
まる(I)は初段の動作電流を決めている定電流源で、巨大なC6容量により交流成分は等価的にGNDと考えて良いと思います。
初段のエミッタ接地回路:Q1~Q4の4並列PNPトランジスタ
エミッタ抵抗、コレクタ抵抗の比率でゲインが決まります。
3.3kΩ / 1kΩ = 3.3倍 20 x log(3.3) = 10.4dB
2段目のエミッタ接地回路:Q5、Q6の2並列NPNトランジスタ
こちらも同様に
6.8kΩ / 1.8kΩ = 3.8倍 20 x log(3.8) = 11.5dB
以上、2段合わせて 約22dBです。 これが主アンプのゲイン K になります。
パワーアンプとしてはゲイン低めですが、この構成では電源電圧に対してクリッピングレベルが低いため、ゲインを高くしようとすると電源電圧を高くしなければいけません。 今回のシミュレーションでは電源電圧を±30Vとしています。8Ω100Wクラスなら電源電圧80V以上になるかもしれません。
トランジスタ並列接続に関しては、どのモデルが何パラを使っているなど詳しくは追っていません。 並列化することで熱的分散とNF向上を狙っていると考えられます。2段目をダーリントン接続にしているモデルもあります。
■信号の振幅をみると
先ほどの回路図にA、B、C、D点を記入しています。
A点:初段への入力 1Vpp
B点:初段エミッタ接地回路によって3.3倍に増幅された信号 = 2段目への入力
C点:2段目エミッタ接地回路によって3.8倍された信号 = OUT信号
D点:副アンプ(DCサーボとして使用中)が出力のオフセットをみて調整している電圧源
正確な計算(例えば2段目のベース側から見たインピーダンスなど)を端折っているため若干の誤差はありますが、ほぼ一致していますね。 C点電圧が少しマイナス側へシフトしているのは出力バッファのバイアス電圧があるからです。
■初段と2段目の増幅率をどう決めるか?
NF的観点から初段で多くゲインを稼いだ方が良いです。(下に詳細を追記)
ところが、初段の増幅率を高くするとB点の振幅が大きくなるので、-側のクリッピングポイントが上がってしまってアンプ全体の振幅がとれなくなってきます。緑色で囲った丸部が2段目Q5,Q6のVce飽和電圧に迫ってくるところです。
試しに、初段のコレクタ抵抗R15を4.7kΩへと変更して初段ゲインを高くしてみます。
このように2段目の出力(C点)がクリップしてしまいますね。
エミッタ接地2段回路で大きな振幅を得ようとするとゲイン配分でシビアな側面が出てくることが分かりました。
ラックスマンのゲイン配分は不明ですが、初段で6~10dB、2段合わせて22~30dBと推測しています。
主アンプの動作をお分かりいただけましたでしょうか?
片電源だった頃のトランジスタアンプ黎明期のような構成でしたね。
続いて、副アンプ側の動作を見ていきましょう。
■多段増幅器のNF(雑音指数)
ノイズの話をあまりしたことないので、ちょっとだけ書いて置きます。
東芝のトランジスタのアプリケーションノートからの抜粋です。
この式のように3段接続された増幅器があったとして、トータルのNFTは
2段目のNF -1 3段目のNF -1
1段目のNF + -------- + --------------
1段目のゲイン 1段目ゲイン x 2段目ゲイン
というように、最初の段のゲインが高いほど後半の項の貢献度が下がっていきます。
初段のゲインが十分に大き(一般に10倍以上)いならば、NFは初段のみで決まると言われています。
よって初段トランジスタの選定と使い方が高S/Nアンプの超重要ポイントになります。
ちなみに雑音指数はゼロということはないため、アンプ1段追加すると(原理上)必ずS/N比は悪化します。
測定上S/Nが良くなることがあるとしたら、その追加したアンプの増幅帯域が狭くてノイズ帯域を制限しているという事になります。
ポータブルヘッドホンアンプを追加するとS/N比が向上したなんて投稿がSNSで出てたりしますが、ノイズとアンプの原理を知っていれば理由は明白ですね。ひずみ率もしかり。 知識を持って惑わされないようにしましょう。
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D点というのは、全体回路図のQ14のエミッタでしょうか。
最初の波形図に続く4行目、「3.8倍された信号がD点に」とありますが、これは「C点」の誤りではないでしょうか。
クリップ波形図の次の行、「2段目の出力(C点)がクリップ」の説明と合わせて考えるとそうとしか思えないのですが。
投稿: 三毛にゃんジェロ | 2026年5月 3日 (日) 19時01分
三毛にゃんジェロさん
ホントですね。 ご指摘ありがとうございます。 訂正しました。
投稿: たかじん | 2026年5月 3日 (日) 21時13分