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2026年2月 7日 (土)

差動回路の出力合成(2)初段カレントミラー負荷

前回は初段負荷にカレントミラー回路(能動負荷)を使って差動成分を合成する回路例を挙げました。 ワイドラー氏がオペアンプ回路設計で考案していたためワイドラー式と呼ぶこともあるようです。

さらっと流すつもりでしたが、ご質問がありましたので少し説明していきたいと思います。

Diff_cir01

LTspiceなどシミュレーションを使えるひとは、ご自身で各所の電圧や電流の動きを見てみるのが理解しやすいと思います。 シミュレーションしても、どこを見ればいいのか分からないというひと向けに書いてみます。

上の図に書き加えたI1は初段電流、I2は2段目の電流。 共に定電流回路です。 エミッタの抵抗値で流す電流を決めることが出来ます。

 

 

■初段の電流は

初段はQ3のエミッタ抵抗R3で電流値を設定できます。

アンプの初段の電流設定は音質に影響がでるので結構重要です。

 

2SC2240などのトランジスタでは経験上1~2mAあたりで動作させるのが個人的に好みの音になります。

1mAあたりまで下げると繊細でキレイですが、低域が優しく細身な印象。
2mA近くなってくると低域のぶ厚さが増して迫力のある音に変わってきます。もっと電流を増やすときはコレクタ損失(発熱)に気を付けます。

トランジスタの種類によっても最適な(最も好みな)動作電流が違ってくるので試聴しながら動作電流を決定するのが良いと思います。

 

 

■初段Q2の出力電圧は?

さて、負荷側を見ていきましょう。 Q4とQ5でカレントミラー回路になっています。Q5が入力側、Q4が出力です。

Q2側の負荷としてカレントミラーを見ると100Ωの抵抗とダイオード接続されたQ5があるだけで、ほぼ電圧振幅はとれない状況です。

 

シミュレーションで見たとしてもout2電圧は電源電圧から、Q2動作電流とR2による電圧降下+ダイオード接続した0.6Vの電圧降下で殆ど振幅しません。

ざっくり計算すると、Q2の電流1mA x 100Ω = 0.1V。 Q5のVbe=0.6V。 電源電圧=15V。であれば、

Vout2の電圧

15V - 0.1V - 0.6V = 14.3V でほぼ一定です。

まったく増幅していないように感じるのですが、実際にはQ2の出力は電流として出ていてカレントミラー回路を通じてQ4の出力へと鏡写し的に現れます。

 

 

■初段Q1の出力電圧は?

一方のQ1の出力は、Q1コレクタ電流と、Q4コレクタ電流(Q2のコレクタ電流の鏡写し)が合成されています。 両方の差動出力を活かしていることが分ります。

では電圧振幅を得る負荷抵抗はどうなっているのかというと、カレントミラーの出力側であるQ4のコレクタは、とても高インピーダンスです。 計算は方法は割愛しますが500kΩから数MΩとしましょう。

超ハイゲインに見えますね。

でも、

Q1のコレクタは2段目へと接続されているのもポイントです。 Q6のベースの入力インピーダンスは、ざっくり計算でエミッタ抵抗R7の470Ωをhfe倍した値。Q6のhfe=200とすると94k。 hfe=300なら141k。 hfeは2倍や3倍ほどバラつきがあるので厳密に計算する意味はありません。 ざっくり100kΩ程度のインピーダンスとしておきましょう。

つまりQ4のコレクタよりもQ6のベースの入力インピーダンスが支配的な負荷としてQ1のコレクタに接続されていることになります。

Q6のhfeのバラつきに左右されるとしても、やはり、超ハイゲインに見えますね。

 

しかし・・・

 

 

■Q1の出力電圧の行方

さて、実際の動作電圧ですが、じつは2段目も定電流回路によって動作電流が一定になるため、R7の電圧降下+Q6のVbe=0.6Vに支配されてout1電圧は殆ど振幅しません。

例えば、2段目を3mAに設定したとして、R7電圧降下は470Ω x 3mA=1.41V。 Q6のVbe=0.6Vとすると、

out1の電圧

15V - 1.41V - 0.6V = 12.99V でほぼ一定です。

 

説明しにくいのですが、Q1もQ2も出力に電圧ゲインとしては見えてきません。もともとフィードバックをかけたアンプの初段差動出力は差動の誤差成分しか現れない動作の仕組みもあり、より一層、振幅が見えにくい箇所になります。実はシミュレーションしても見えにくいです。

この回路のカレントミラー負荷による合成出力は、Q6のベース電流への変化分として活かされているとだけ覚えてもらえれば良いと思います。

 

 

■Q1の出力電圧の制約

out2電圧は、「R2の抵抗値」と「1段目の動作電流(= I1÷2)」

out1電圧は、「R7の抵抗値」と「2段目の動作電流(= I2)」

にて決定できます。

 

ここで

ひとつ重要なポイントとして、out2電圧 > out1電圧 にしておきます。

理由は単純でQ4のコレクタ電圧がベースの電圧を超えるとQ4が機能しなくなるからです。 ベースとコレクタの電圧が同じくらいになると急激にhfeが低下してトランジスタが性能を発揮できなくなってきます。Vce(sat)が限界点です。

 

ここの制約を守ればI1とI2は自由に設定できます。

 

初段電流I1は音質的な観点で設定(Q1,Q2が1~2mA程度、I1は2倍の値)。

2段目電流I2は、出力段のドライブ力の観点から設定(2~5mA程度)。

でOKです。

 

 

■Q1の出力電圧の制約(2)

あとひとつ付け加えるならば、out1電圧が低くなると出力の最大振幅も低くなる(+側のクリップ電圧が下がる)ので注意が必要です。

Q6のベース電圧とコレクタ電圧の関係からです。 

電源電圧近くまで出力を振幅させたいのであればout1電圧をなるべく高くギリギリを攻めることになります。

 

 

■熱的バランスも考えると

Q1とQ2のコレクタの電圧の差が大きいとコレクタ損失により熱的なバランスが崩れてしまいます。 トランジスタをボンドで付けて熱結合したり、2個入りトランジスタ(Dual トランジスタ)を使うという手段もありますが、out1電圧とout2電圧をあまり離さないのも手段のひとつです。

熱的バランスが崩れているとDCドリフトが発生します。 

スピーカー用のパワーアンプなら±50mVくらいドリフトしても特に問題は起きませんが、ヘッドホンアンプは±10mV以下に抑えておきたいものですね。 

 

 

 

という訳で、I1、I2は自由に設定できますが、回路がアンプとしてふるまう時に程よい電流値というのが何となく決まってきます。 

 

私が気が付いていないだけで、初段電流を0.1mA以下にするとか、10mA以上にするとかで別世界が見えてくる可能性もあります。 チャレンジしてみるのも面白いですね。

 

 


参考まで

この差動合成回路が使われていた回路例です。 ソニー TA-FA777ESのサービスマニュアルからパワーアンプ部抜粋です。

Sony_tafa777

ソニーは80年代後半から多くのモデルでパワーアンプ部に初段カレントミラー負荷を採用していました。

TA-FA777ESの初段はJFET(2SK389)でカスコードブートストラップ付き。 このモデル特有なのは2段目にMOSFETを使っている所です。 まあ、動作的にはバイポーラトランジスタを使ったときと一緒と思いますが、2段目の入力インピーダンスは極端に高くなるはずで、初段の電流が2段目へと漏れるのを防いで正確な差動動作を狙っていると考えられます。

その他、オンキヨーやパイオニアなどでもこの回路を一部モデルで使用していたと思います。

 

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コメント

たかじんさん

質問に答えていただき、ありがとうございました。
電流増幅回路として理解すると、少し理解が進むような気がしました。

この回路をたかじんさんが採用しない(アンバランスな負荷)のも、わかるような気がしました。 差動の両方を活かせるとはいえ、熱バランスの崩れからドリフトの問題が大きくなりそうです。 オペアンプの内部回路なら、そういう問題も出てきにくいのではと考えてしまいました。

続きの記事が、楽しみです。

n'Guin さん

こちらこそありがとうございます。

オペアンプ内部ではシリコン基板上のトランジスタなので熱結合は強いと思います。

イチケンさんがYoutubeにて紹介されていますが、初段トランジスタを分けて交差するように配置するなどテクニックも使っているかもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=maJQiwuKzZM

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