差動回路の出力合成(5)フォールデッドカスコード
差動回路の出力合成(4) で完了にしようと思っていましたが、コメントを頂いたフォールデッドカスコード回路についても書こうと思います。
こんな回路になります。 R1,R2の位置を2段目側に移動しているのは、その方が電流の流れを考えやすいからです。
これまで例にあげた回路は1段目で増幅、2段目でも増幅する「2段増幅回路」になっていてました。 しかしながらフォールデッドカスコードは1段目と2段目が独立しておらず実質1段増幅と考える方が良いと思います。
初段差動の電流を他に漏らさないようにして正確な差動動作を実現、直線性の向上を目指している。というのが通常の差動回路です。
フォールデッドカスコードは、初段と2段目に流れる電流を分流することで信号を伝達します。 つまり差動動作(2分岐)の上流で枝分かれして電流が4分岐していので正確な差動成分の抽出を目指している回路ではありません。 とはいえ、初段の負荷は完全に等しいので、DCドリフトは起きにくい回路です。 もし、差動成分の抽出を正確にしたいのであれば2段目の下側のカレントミラーを強化するのが良いのではないでしょうか。
R1,R2に流れる電流は、D5によるバイアス電圧とR1,R2の抵抗値によって決まりますが、初段に電流を持っていかれる分、2段目(Q4,Q6)の動作電流は減ります。
R1,R2電流のダイナミックレンジのことを考えると初段と2段目の動作電流は1:1になるのが理想に思えますが、初段トランジスタの音の良い動作領域と、2段目の仕事の一部である出力段のドライブ力と役目が違うため電流の分流比は研究の余地があると考えられます。
先ほども書きましたが、1段増幅回路なのでオープンループゲインは通常60~70dBにとどまり、90~100dBを超える2段増幅回路と比較すると低ひずみ、低ノイズを実現するのは難しい回路です。 その代わり高速、かつ、複雑な位相補償なしで高安定な回路になると思います。
という事でざっくり回路説明しました。
より詳細を知りたい人はシミュレーションしてみるのが良いと思います。
参考まで
フォールデッドカスコードをオーディオ製品に載せた例はマランツ以外で見たことありません。
以下は、マランツ CD-15に搭載されたHDAM(Hyper Dynamic Amplifier Module)というアンプモジュールの回路です。
お手本的な回路構成で分かりやすいです。回路定数をみると初段に4mA以上(0.6V÷68Ω)という大きな電流を流しているためスルーレートは非常に高かったと思います。
CD-15のように初期のHDAMはモジュールでしたが、その後は基板上に「蓋をするだけの銅カバー」になりました。
モジュールを基板に実装すると、接点が増えてしまうので基板のディスクリート回路にカバーをするだけの方がメリットがあるとに気が付いたのかもしれませんね。
< マランツCD-7のDAC基板 TDA1541とHDAMが映える >
フォールデッドカスコードは銅カバーシールドが必要(外来ノイズに弱い回路)とは思えないのですが、立派な銅カバーがカタログ内で異彩を放ち、一定の宣伝効果はあったと思います。 銅価格高騰の影響か近年では銅カバーが省略されたようです。 残念ですね。
ラックスマンのアンプにもフォールデッドカスコードが使われていた時期があったそうです。dumbbellcurlさん情報ありがとうございます。
Luxman L-410のパワーアンプ部。
初段はJFET(2SK270)とトランジスタのダーリントン接続差動回路でカレントミラー能動負荷。 そして2段目は定電流回路付きフォールデッドカスコード回路。 差動合成は初段のカレントミラー部によって行っていますが、2段目が低インピーダンス入力なので増幅率はゼロ。2段目への電流入力により、ほぼ1段増幅回路になっています。 他に例を見ない独創的な回路構成に驚かされますね。
と、差動出力を合成し後段へと伝達する回路を4つほど取り上げました。
いかがでしたでしょうか。
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有名なところではLUXMANはODNFになる前はフォールデッドカスコードを採用していました。
最近はODNFからLIFESというものにかわっているそうですが、ネットで見た限りの情報では同じようなものみたいです。
無線と実験もチェックしなくなってしまったので具体的には知らないんですよね。
投稿: dumbbellcurl | 2026年2月16日 (月) 23時28分
dumbbellcurl さん
そうだったのですね。 気が付いていませんでした。ありがとうございます。
低NFBを狙うラックスにとってはオープンループゲインが低いフォールデッドカスコードは良さそうです。
ODNFとLIFESの違いはどこにあるのか私も疑問に思っています。 以前、シミュレーションしていたので、どこかのタイミングで記事に書こうと思っていて忘れ去られていました。
図書館にいくと無線と実験のバックナンバーが1年分くらいは読めるので、暇を見て行ってみようかな・・・
投稿: たかじん | 2026年2月17日 (火) 20時28分
dumbbellcurl さんのおっしゃるとおりラックスマンが大昔に
製品発売してました。記憶が曖昧ですが数十年前のA級出力プリメイン
アンプ、たしか大型の電源トロイダルと銅製のヒートパイプが印象的な
やつだったと思います。デュオベータ世代だったような?
古い無線と実験を整理してスキャンしたデータを見ると
スタックスのパワーアンプ(DA-100M,DA-50M)(1980年,1981年)
(FIDELIX中川さんが在籍していたころの製品らしい)の回路図でも
フォールデッドカスコードが採用されていると思います。
ElektoTanyaで「SATAX DA-100 SCH」で回路図がダウンロードできます
ので興味がありましたら見てみてください。
投稿: maki | 2026年3月 4日 (水) 23時34分
脱字訂正です。(M抜けていました。)すいません。
ElektoTanyaで「SATAX DA-100M SCH」で回路図がダウンロードできます
ので興味がありましたら見てみてください。
投稿: maki | 2026年3月 4日 (水) 23時57分
maki さん
情報ありがとうございます。 記事中にUPしたLuxman L-410もDuoベータ回路と呼んでいました。 ぱっと見ではフォールデッドに見えないけど、フォールデッドカスコード回路です。 差動合成を1段目で行っているか(LUX)、2段目で行っているか(マランツ)の違いがあります。
SATAX DA-100M SCHを見てみました。 とても奇抜な回路ですね。 D101、D102でクランプされて2段目出力の振幅が±0.6Vに制限されているようです。
まだちゃんと読み解けておりませんが、その後のダイヤモンドバッファの上下カレントミラー部からもフォールデッドカスコードを使って振幅を得ていますね。 ダイヤモンドバッファの出力はダイレクトにGNDへと落としています。
ダイヤモンドバッファの上下にカレントミラーを配置してゲインを得るのは電流帰還アンプによくあるパターンですが、この構成は初めてみました。
初段差動の電源のシャントレギュレータも相当な凝り具合ですね。 大変勉強になりました。 ありがとうございます。
投稿: たかじん | 2026年3月 5日 (木) 22時49分