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2024年12月31日 (火)

準コンプリメンタリ回路いろいろ

アンプの終段に使えるパワートランジスタがNPNとPNPで特性の揃ったコンプリメンタリ・ペアがなかった時代、NPNのみで構成した準コンプリメンタリという回路がありました。

先人たちによっていくつかの手法が開発されていましたので、その一部を見てみましょう。

QUAD Low Distortion Class B circuit

Quad_amp

この回路はWireless World という雑誌の1968年4月号からの抜粋でQUAD社の回路です。

 

市販アンプとして QUAD 303というパワーアンプに採用された回路の基本構成らしいです。 上下とも3つのトランジスタを使っていて、上の3つで高出力NPNトランジスタ、下3つで高出力PNPトランジスタの動作として動く回路になっていました。

1960年代初頭から準コンプリ回路はあったようですが、QUAD 社は低ひずみな準コンプリ回路として発表されました。 クロスオーバー歪の発生が少なくClass Bアンプ(今でいうAB級に相当)として低ひずみ化できるというのが特徴です。

 

 

 

Leak delta 70の回路

1960年代のオーソドックスな回路と思われる回路図を発見しました。63年発売の Leak STEREO 30 はほぼ同じ構成ですがゲルマニウムトランジスタを使っていて終段はPNPの準コンプリ。 Delta 70はシリコントランジスタでNPNです。

Leak-delta-70

回路記号が独特だったので修正してわかりやすくしています。

初段は差動回路ではなくエミッタ接地回路で、フィードバックはエミッタ部へ帰しています。 C32はブートストラップという技術で当時の多くのアンプが採用していたようです。 励振段の定電流抵抗部に少量の正帰還を掛けて交流成分のインピーダンス上昇 ->励振段の増幅率UP ->NFB量UP。
結果的にひずみ率・ノイズが低減するという効果が得られます。

 

 

 I.M. Shaw氏のダイオード挿入による補正回路

Wireless World 1969年6月号 から I.M.Shaw氏のモディファイ回路です。 Leak社のような当時のオーソドックスな回路をベースにしています。

Shaws_circuit

特徴的なのは下側のエミッタ抵抗に直列に挿入されたダイオードです。 これは、上側NPNトランジスタのVbe-Ic特性に似せるための補正です。 上側は2段ダーリントンなのでバイアス電圧が約1.2VでIcが流れ始めます。 下側はPNPトランジスタのVbe=0.6VとダイオードVf=0.6Vを足した約1.2VでIcが流れ始めるというからくりです。

これによりクロスオーバー歪が低減され20mAや80mAという少ないアイドリング電流(AB級アンプ)で低ひずみにできます。

 

 

John Linsley Hood 氏もダイオード挿入してました

このダイオード挿入による補正にはいくつか亜種があり、かの有名なJLH氏も75Wアンプで採用しています。 終段ではなくドライバ段へ挿入しているため大電流ダイオードではなくてすみます。

Jlh_75wamp

     < JLH 75W Amplifier 1972 >

ダイオードに並列接続したCにより高い周波数領域でも低ひずみにできるとJLH氏は解説しています。

当時のアンプ回路は、雑誌で発表した回路を別の誰かがモディファイして、それを参考に別の人が特性を伸ばして・・・ と誌面上でアイデアを出して皆で新回路を開発していくという面白い状況があったように感じます。

オーディオ回路は真空管ラジオの頃からオープンな環境で業界みんなで性能を向上させてきた歴史があるように思います。 半導体メーカーもコピーして互換品を販売するのが一般的でしたし、オーディオメーカー同士もクロスライセンスを結び無意味な特許戦争を回避していました。

 

シグネティクス社 NE5532 等価回路

1979年にシグネティクス社が開発したNE5532の等価回路も準コンプリでダイオードが入っていました。

Ne5532sch

   < PhilipsのNE5532データシートから抜粋 >

終段を見ると同じ構成のように見えますが、ダーリントン接続ではありません。おそらく上側のVbe1段分に合わせて下側コレクタ出力のゲインによる鋭い波形をなだらかにして低ひずみ化、さらにはクリッピングレベルの帳尻合わせを狙ったのではないでしょうか。

 

 

21世紀でも準コンプリメンタリを採用するDENON

現代でもDENONの一部モデルで Nch MOSFET(UHC-MOS)による準コンプリ回路が採用されています。

Pma_a100

  < PMA-A100 サービスマニュアルから抜粋 >

とてもシンプルで1970年代から殆ど変わらない回路(デバイスは最新)です。 このモデルは聴いていませんが前モデルのPMA-2000AEは重心が低く安定のデンオンサウンドで個人的に好きなモデルです。

この回路図で唯一気に入らないところはバイアス調整のVRの挿入位置です。 半固定抵抗の摺動子が接点不良になった場合、アイドリング電流が大きくなる方向に行ってしまう。 電解コンデンサ、ダイオード、トランジスタ、可変抵抗は比較的壊れやすい部品ですので故障時にどうなるか考慮すべきです。(FUSEを切って安全方向へと誘導する仕組みかもしれませんけど)

 

 

 

個性的な準コンプリ駆動回路

最後に紹介するのは、MJ誌に寄稿している某先生の回路です。

Quasi_coml_2

2段目の差動出力から同じように上下へと分配しています。一見して上下とも同じ回路でキレイに見えるのが特徴です。

 

ただ、

この回路の難点はバイアス生成回路で温度補償ができないところです。 バイアス、兼、I/V変換抵抗にサーマル抵抗(NTC)を入れて熱暴走を止めているようです。

また、2段目の負荷抵抗を高くすることができないので2段目のゲインが低く、NFB量を大きくできません。(低NFBアンプの良さもあるのでデメリットというわけではありません。)

 

 

 

まとめ

個人的な意見ですが、

特性の揃ったNPN+PNPトランジスタが開発されて準コンプリの出番が無くなったように思っていました。 エミッタ出力とコレクタ出力では動作も違うし、出力インピーダンスも全く異なります。 そういうアンバランスさが興味をそそらない一因でした。

でも準コンプリだから音が悪いという訳でもなく回路次第なのかなと思います。

 

一言で表すと「食わず嫌い」ですね。

 

 

2020年代に入ったいま、

SiC-MOSFETのようにPchが開発されないデバイスもあるので、準コンプリメンタリで回路を組む面白さというのもあるように思います。

 

 

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パワーアンプ」カテゴリの記事

コメント

たかじん様

新年明けましておめでとうございます。
昨年は公私共々余裕がなく、自作は全く出来ませんでした・・・
唯一、MarkAudioのCHN719で、フルレンジを自作したくらいです。
本HPも大変ご無沙汰しております。

新年早々、回路ネタで始まりましたね。
SiC MOSFETを使った準コンプリ版のVFA-02(仮)、すごく楽しみです。
これまで領布していただいたVFA-01、ALX-03、SMR-01は、すべて、私のオーディオライフに無くてはならないアンプ群です。お陰様で、毎日、良い音で音楽を楽しめてます。
VFA-02で、また、自作を復活させようと思ってます。

今年も何卒宜しくお願い致します。

kontiki さん

明けましておめでとうございます。
CHN719ですか。 マークオーディオの透き通った感じはFOSTEXでは出てこない音ですよね。  型式わすれましたが球形のエンクロージャに入れたマークオーディオのスピーカで、感動した覚えがあります。

パワーアンプ3兄弟すべて製作されていらっしゃったのですね。 ありがとうございます。
VFA-02はまだ構想中ですが、試作してみて良い音が出るようになりましたらリリースいたします。

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

学校出て就職した前後くらいは「純コン」か「準コン」かと製作記事やオーディオ雑誌がかしましかったのを思い出しました。
なんかなつかしー(笑)

天 婦羅夫 さん

準コンプリと純コンプリ。 完全なコンプリメンタリ・トランジスタが一般的になって決着がついたかのようにみえましたね。

いま、いろいろシミュレーションしていますが、準コンプリは非対称性の気持ち悪さが完全には払拭しきれません。

ですが、SiCやGaN FETなど新しいデバイスの音を聴いてみたいというワクワク感も結構あります。

GaN FETはぜひ聞いてみたいです。もし試行錯誤なさるなら、その過程も紹介して頂けると勉強になります。
Card Rabbitも楽しみにしていますね。

WideBandGapの半導体素子って、
音響周波数帯でも素性がよくなるのですか?

パワー系の知識をかじった程度なので
ゲートドライブの高周波化が可能な事と
On抵抗が小さくてOff時の漏れ電流が少ない、
そのあたりに絞って開発されているものと思いこんできました。

スイッチングと増幅とでは動作モードが違うと思うので
その辺りのヒントでもいただけると勉強のためになりますので
よろしくお願いします。

ヨシダさん

ですね。 私も GaN FETの音を聴いてみたいです。  テクニクスのD級アンプで採用例があります。

修正版Card RabbitもVFA-01 rev2もVFA-02も一緒にデータ出し予定です。


sawanoriichi さん

耐電圧、入力容量(高速応答性)、ON抵抗(最大電流)にはトレードオフがあります。

そして、従来のシリコンとワイドギャップ系トランジスタを比較すると、ワイドギャップ半導体のトレードオフが一段高いところにあるのは事実のようです。

入力容量とON抵抗が同じなら、SiCは耐圧を高くできる。
耐圧とON抵抗が同じなら、SiCは入力容量を小さくできる。

という具合。

リニア動作させる場合はON抵抗は殆ど無意味と思います。
また、オーディオのパワーアンプ用途なら耐圧は200V以上あれば差はありません。

残るは入力容量や相互コンダクタンスgmあたりになってくるでしょうか。

ただ、入力容量が小さければ必ず音が良いという訳でもなく、デバイス固有の音が気に入るかどうかって話になってしまいます。参考にならずすみません。

SiC MOSFETは音が良いとおっしゃる某先生は偉大ですね。

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