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2024年9月23日 (月)

アキュフェーズ ANCC 歪打消し回路シミュレーション

先日、ONKYO特許回路を解析して久しぶりにLTspice(シミュレーション)を楽しんだところですが、今日はアキュフェーズのANCC回路をシミュレーションしてみましょう。回路例がここに掲載されていました。

https://www.accuphase.co.jp/information/pub/mj/accuphase2209.pdf

フィードフォワード型とフィードバック型の2種類がありますが、本日はフィードフォワード型を見てみます。

Ancc_01

抵抗の定数など不明ですが、動作原理を知るだけなら適当で大丈夫だと思います。

この回路は10年くらい前に書いたオペアンプを2個使った回路いろいろで取り上げた回路に一部似ています。

 

 

実は LTspiceでオペアンプの歪を評価しようとすると大変です。 ほぼ歪波形が見えませんから・・・

という訳で、わざと非直線成分をオペアンプ出力に付けてシミュレーションしてみます。とりあえずこんな回路でスタートしてみましょう。

Ancc_02

メインアンプはU1の反転アンプです。

上側のU2の回路を無視すると、普通に反転アンプですが何も歪まないと信号を見分けにくいためD1,D2をU1出力に付けて邪魔してみました。

 

波形は以下のようになりす。 V(out1)のゼロクロス時にノッチがでてますね。

Ancc_03

そして、注目する点はV(in2)です。 

仮想短絡(イマジナリー・ショート)といってアンプの+入力と-入力の電位が等しくなるようにアンプが動作するのは良く登場するので、理解されている方もいると思います。 反転アンプの場合は+入力がGNDなので、アンプがちゃんと動作しているなら-入力もGNDと同じになるハズです。

ところが、アンプは完全な動作ではないので、増幅して完璧な仮想短絡まで到達できなかった歪やノイズ成分が-端子に現れるのです。つまり-入力端子に見える信号はアンプがリニアに増幅できなかった歪成分の抽出機能があるわけです。 まあオペアンプ本に載っているので知っている人もいるとは思います。そこを利用したのがANCCの正体です。

 

 

では、早速打消しにかかりましょう。

U2側の出力はIN2端子の信号を約3倍に増幅しています。 なぜならU1も約3倍にしたからです。

Ancc_04

OUT1とOUT2のノッチの位相は同じ方向になっています。これは以前の回路の抵抗MIX打消しではなく差動受けすることにしたためです。

というか、正直に言うとバランス接続したヘッドホンをイメージしています。(R5を30Ωとか50Ωにするとより近い)

 

ノッチ波形部分を拡大してみましょう。

Ancc_05

緑:U1出力
青:U2出力(歪検出波形の約3倍)
赤:IN2(歪検出波形)

U1のノッチ波形と等しいのはIN2波形のように見えますね。そのままU2で1倍で出力した方がぴたりと打ち消しそうですが、どうなのでしょう。 よく分からないので、U2側ゲインを可変して確かめてみましょう。

 

U2のゲインを決定しているR3の抵抗値を10kΩ(約3倍)と1Ω(1倍)とを.stepコマンドを使ってシミュレーションしました。

Ancc_06

緑:U1出力
青:U2出力(歪検出波形の1倍、3倍)
赤:IN2(歪検出波形)

ちょっと分かりにくいかもしれませんが、U1出力とU2出力が負荷抵抗を介して繋がっているため影響しあっているようでU2側のゲインを変えただけでU1出力波形も変化しているようです。

肝心の負荷抵抗に流れる電流を見てみましょう。

Ancc_07

緑:U2ゲイン 1倍
青:U2ゲイン 3倍

いかがでしょうか。 3倍の方が打消し効果が高くなっているようです。でも完全ではありません。

もっとU2ゲインを上げてみましょう。

 

 

R3の抵抗値を変えるとC2の位相補償の利き方も変わってしまうので、R4側を可変するよう方針を変更しました。

Ancc_07_20240926195301

U2ゲイン 1倍 R4=1000k
U2ゲイン 2倍 R4=33k
U2ゲイン 3.3倍 R4=14.33k
U2ゲイン 4倍 R4=11k
U2ゲイン 5倍 R4=8.25k
U2ゲイン 6倍 R4=6.6k

緑色の線は、D1,D2の歪発生源をやめた本来あるべき軌跡です。

3.3倍が理論上で補正が適していると思っていたのですが、4倍が最も理想的にトレースしているように見えます。でも4倍は少しだけツノが出始めています。5倍でははっきりと過剰補正な事が分かります。そう考えると、3.5~3.6倍くらいが適量?

 

 

******

薄々気付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、バランス駆動で+側と-側とで違う波形を出力して歪やノイズを打ち消す方法はSONYのヘッドホンアンプ(TA-ZH1ES)がやっている手法です。 そちらはD級アンプがメインアンプでサブアンプがメインアンプのノイズと歪を打ち消すように出力するという方法です。

Ancc_09

メインのD級アンプがノイズや歪を出すなら「サブアンプ側のみ」で構成すればいいんじゃない? と思ってしまうのは私だけでしょうか。

 

 

 


 
そして、別のバリエーションとしてのANCC回路はこちら。

トランジスタバッファがメインアンプの出力に付いているのと、フィードフォワード回路からフィードバック回路へと変形させています。

Ancc_10

じつは、この回路を良くみると副アンプの+入力と出力が同じノードに接続さているのが分かります。 -入力側はNFBからのβ回路が接続されているので、ゲインUPすることができます。

先日のONKYO回路もダイヤモンドバッファの入力と出力とをショートしていたけど、バッファ部の電圧増幅率がゼロ以下なので発振しませんでしたが、こちらはどうなのでしょうか。 ゲインがあると正帰還がかかるように見えなくもない不思議な回路です。

Ancc_11

このように入力が逆だったら打消し成分を注入できるような気がしますね。わからんけど。

 

 

 

LTspiceでは歪低減効果をはっきりと見ることができなかったため、また日を改めて検証結果を書きたいと思います。=>こちらへどうぞ。

 

 

歪打消し機能とは関係ありませんが、アキュフェーズのこの回路もONKYOの特許回路もメインアンプが反転アンプである点に注目しています。

非反転アンプと比べて入力インピーダンスを高くしにくいとか、高めにすると熱雑音が増えてS/Nが悪化するなどデメリットもあるのですが、出てくる音は何故か良いんですよ。 回路図を見て気づいている方もいるとは思いますが、SabreberryDAC Zero2の出力部は反転アンプで構成されています。もちろん初代DAC Zeroもです。 SMR-01開発記事で反転アンプの良いところを書いていたような気もします。

 

 

メインアンプとサブアンプで構成されたアンプとしてはLUXMANのLIFES(旧ODNF)回路もありますね・・・ 秋の夜長にはシミュレーションはぴったりです。

皆さんもぜひ楽しんでみてください。

 

 

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コメント

フィードバック型のANCCはどうすればうまく解析できるのか悩んだのですが
付加している副アンプ部分を丸ごと負性抵抗と考えてみると(そういう回路の形なので)
負性抵抗をR1//R2の値にすると歪みが打ち消せるようです。
負性抵抗だなんていかにも発振しそうな回路ですね。

dumbbellcurl さん

ありがとうございます。 確かに負性抵抗回路ですね。 IN2ポイントの歪成分を打ち消すというより増大させて U1のサミングノードへ働きかけることでU1出力の歪を低減するみたいですね。

フィードフォワード式ではU1とU2の速度が同じ程度で良かったけど、フィードバック型の方はU2側の動作が早くないと上のようなノッチを打ち消せないことが分ってきました。


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