グランドループ GROUND LOOP 解決方法
以前、アンプ基板が2つに分かれてシグナルGNDが機器内で離れてしまうような場合の対策を主に書いていました。
今回は、電子ボリュームを使ったときに電源系のGND(Power GND)をどう処理するかについて書こうと思います。
電子ボリュームには+V、ーV、GND の3本が配線が追加になります。 略図では+Vと-V配線は省略しています。
以下のようにGND線に抵抗を入れてLOOPを切ります。簡単ですね。
PGA2311基板ではR6(10Ω)がこのGND切り抵抗です。
MUSES72323基板はR11,R12です。標準では未実装としていますが10Ω程度を入れるとGND電位が近づきます。
MUSES72323 バランス基板はR7,R8,R9,R10です。 同様に10Ωくらいが良いでしょう。
基本的な考え方はどれも一緒で「GNDループを作らない」ことです。
シャシーへの接続
さて、今回はシグナルGNDとパワーGNDをどこでつなげるか。どこでシャシーに落とすかも観ていきましょう。
昔の真空管ラジオのように木製ケースはシャシーアースという考え方はなかったはずですが、金属シャシーを使う場合は、うまく利用することで外来ノイズを遮断するシールド効果を得ることができます。
赤い線がシグナルGND、電源基板のコンデンサ間がパワーGND、青い線が両方が合わさったGND線。ここをシャシーに落とすのが基本パターンです。スピーカー端子のGND側(リターンGND)は、電源基板のコンデンサ間に独立して接続することが多いです。
このように電源の根本に配線が集中してきて自然と1点アース的になります。
ボリュームの抵抗が100kΩ以上と高いアンプの場合(真空管アンプなど)はボリュームノブを手で操作しようとすると「ブーン」とハムノイズを誘発することがあります。そんな場合は、ボリューム部のシグナルGNDをシャシーに落とすという手もあります。
電源の根本側は1点集中になっていますが、そこからシャシーへは繋げません。(つなげた方が良い場合もあります)
また、RCA端子近くでシャシーへ接続すると効果的な場合もあります。信号ラインのインピーダンスが高いときはシャシー全体をシールドとして、配線をシャシーに沿って這わせることで外来ノイズを減らす工夫をします。(電源配線やトランスから遠ざけて信号配線を固定することも効果的です)
※GND配線がしっかりしている。かつ、CDプレーヤーなど信号レベルが高い機器のみ接続するのであればシャシーへGNDを接続しなくても問題ありません。
IEC 3pinインレットのアース端子
最近のオーディオ機器はACケーブルが交換できるように、IECの3極インレットを使うことが多くなっています。
Marantz Model 40n (2極インレット)
Luxman D-03X (3極センター未接続)
SONY TA-A1ES HAP-Z1ES (2極インレット) こちらから拝借
DENON PMA-SX1 Limited (2極インレット)
YAMAHA M-5000 (2極インレット)
エソテリック D-02X (3極センター未接続)
SOULNOTE C-1(3極センター未接続)
どの製品も2極だったり、3極のアース線が内部で未接続だったりしますね。
実は安全規格上でオーディオ製品のコンセントのアース線はシャシーに繋げなくてもよいのです。それどころかシャシーに接続するとハムノイズを引き起こす問題が発生します。
どこかの修理サイトで、後付け3極インレットのアース端子をシャシーに接続しちゃったりしていますが、、、 プリアンプとパワーアンプとをアースに接続するとハムが出る可能性が高いです。 それと、ガレージメーカーの一部ではアース接続されている例があるようですので、使い方に注意が必要です。CDもレコードもプリもパワーアンプもみんなコンセントのアースに接続されてたら、どんなことになるやら。
海外の一部では、感電保護の目的でアース線をシャシーに接続しなければいけません。当然ハムノイズが発生し、あれこれ対策を強いられています。
コンセントのアース線と、RCAケーブル、XLRケーブルのシールド線を通して巨大なGNDループができますね。
筐体の中にできたGNDループですらハムノイズを引き起こすのに筐体の外で数メートルに及ぶGNDループで問題が起きないわけがありません。 安全規格を策定する人にとっては感電しないことが優先で、ステレオ機器からブーンというノイズがでても知ったことではありません。
さて、対策は
RCAやXLRを信号トランスで絶縁する=GNDリフトする。
HUM-X なるGNDアイソレータを取り付ける。
コンセントのアース配線を接続しない。
あたりです。どれもGNDループを断ち切るのがポイントです。
HUM-Xの効果はさておき、オーディオ機器を接続するのに常に信号ラインに絶縁トランスを介していると本来の音が聴けないですよね。
コンセントのアース接続はオーディオ機器1台だけならGNDループができないためハム問題は起きません。
以下のようにコンセントを同じ口からとると良いという記載も見受けられるけどハム音が小さくなるくらいで完全対策にはならないと思われます。
部屋が広くて心も広い方々は、多少のハムノイズは受け入れられるのかもしれませんね。
海外サイトではアースを浮かすと危険だ、感電すると書いてあるコメントが多いですが、日本の場合は感電保護クラスが規定されていてアース接続がなくても感電しないようになっています。というか海外でもアースを浮かせただけで即、感電とはならないと思います。
家電製品が故障したり、水が掛かったりして1次側絶縁が保てなくなったとき、日本の場合は漏電ブレーカーが効いて保護されるけど海外ではアースに頼る。という違いがあるんだと思います。
※ L-N間で感電したとき漏電ブレーカーは効かないので完全な感電保護ではありません。
感電保護クラス
感電保護クラスについてはこちらを読むと判りやすいです。
現在の日本では、水まわりの家電(洗濯機、ウォシュレット、冷蔵庫、電子レンジ、食洗器など)は、アース線を接続できるようなクラス0I機器に分類されます。この手の製品でもアース接続が強制ではありませんが、アース接続した方がより安全に使用できます。
一方、
オーディオやテレビ、ラジオなどの機器はクラス0、もしくは付加絶縁(強化絶縁)されたクラスIIですのでアース接続はいりません。
四角が2重になっているのが二重絶縁マークでクラスII に対応した機器ということを表しています。近年のオーディオ機器はクラスIIが多いように思います。
よく分からないのがパソコンですね。アース付きACケーブルが付録されてきますし、筐体(ATX電源)はアース接続されています。では感電保護クラスI やクラス0Iなのかというと、そもそも電気用品安全法(PSE)にパソコンという区分がないので認証要らず「すり抜け製品」なのだそうです。同様に回路検証などでよく使われる安定化電源や前記ATX電源単体も技術者が使うもの(一般市民向けではない)ということで「すり抜け製品」になりPSE認証はいらないそうです。
他にも色々すり抜けられる電気製品があるようなので、わりとザルですね。
真空管アンプなどの「キット」も電気的知識がある技術者が使うものとしてすり抜けているのかもしれません。
話が脱線しました。 PSEに適合するには
このような絶縁耐圧試験機でAC1000Vや1500Vの電圧をかけてコンセント<->シャシー間の絶縁性能(<5mAなど)を確認しています。十分な絶縁性が担保されるのでアース接続がなくても感電しません。
(この写真はお仕事でちょっぴり高い電圧で試験中のもの。家庭用機器にAC10kVかけると絶縁破壊して壊れます。)
詳しく知りたい方は以下の資料をどうぞ。法令の文章は少々難解なところがあります。。
HUM Xの正体
海外のサイトでも内部を見たいという人がいるようで解析されています。
アース線を両極接続したダイオードで浮かせているんですね。説明によれば電位差6Vまでカットできると書いてあるので10直列ダイオードなのでしょう。 GNDループを切ればハムノイズは解消されますね。
似たような製品が沢山出回っているようです。 結局、アース接続が(法律上)必要な国でもアース線によるGNDループが邪魔で浮かせるようです。
ちなみにダイオードはA-K間で電位差がないときはインピーダンスが高いといわれています。
アマゾンでは「グランド ループ アイソレーター」で沢山の製品がヒットします。 安全規格上でアースがシャシーに接続されている国では、オーディオを聞こうとするだけで無駄にみんな苦労するんだろうなって思います。
https://www.amazon.co.jp/s?k=ground+loop+isolator
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たかじんさん
電子ボリューム使用時のGND配線の原則を明確に示していただき、ありがとうございます。
こうやって解説してもらうと、SGNDとパワーGNDどの接続に、盲目的に10Ω程度いれてしまうのが初心者が失敗しない方法のように思えてきます。
「要はLoopを作らない」ことを守っても、引回しや実装が意外に音質等に影響してくる経験を何度もので、あなどれないと思っています。
投稿: n'Guin | 2023年7月 3日 (月) 04時12分
興味深い解説ありがとうございます。
XLRキヤノン接続した場合はGNDを基準にしないためハムノイズは発生しないというのは本当でしょうか?
投稿: | 2023年7月 3日 (月) 13時04分
2極接続時にAC100VのNとLを確実に接続できる構造のプラグ、レセプタクルが登場しないかなとずっと思っています。直結式AC/DCアダプターもどちらの刃がNとLに該当するのかも明記するようにして欲しいもの。
ハムノイズが出たら接続をひっくり返すなんて、アナクロニズムもいいところ。
投稿: 三毛にゃんジェロ | 2023年7月 3日 (月) 13時37分
n'Guinさん
そうですね。GND切り抵抗は10Ωくらいで良いかと思います。 配線の取り回しってわりと重要ですよね。
ななしさん
XLRバランス接続でもGNDが接続されてGNDループができるとハムノイズは発生します。
バランス接続はGNDを基準にしないというのは、正確には嘘です。
受信側はGNDを中心にした電位で、一定の範囲しか信号を受け取れません。
例えば、GND(0V)に対して、+20Vと+21Vとの差の信号を受信できるかというと、多くの場合はダメですね。 GNDを基準に内部のOPAMPの電源電圧を超えるとクリップします。
ただ、バランス接続に信号トランスを使っている場合はこの限りではありません。特にGND リフト機能があるものは、GNDループを切ることが可能です。
三毛にゃんジェさん
コンセントのL/Nは逆に接続しても殆どの場合、問題ないですね。 アメリカあたりのコンセントは片側が広くなっていて逆にさせないタイプがあったと思います。
まあ、ベストな音での再生となるとL/Nの極性はそれぞれの機器で合わせるのが良いとされています。
昔、某FM誌で長岡鉄男氏がテスターでRCA端子のGND電位を調べて、CDやカセットデッキとアンプが近い電圧になるようにコンセントを刺すと良いと書いていました。
RCAのGND <---テスタ---> 人の手
という感じでテスターに表示される電圧です。
投稿: たかじん | 2023年7月 3日 (月) 22時14分
コンセントのLもNもシャシーへは接続しないので、アースがない機器ではGNDループはできません。 念のため。
むしろ、しっかり絶縁が取れていることを保証しています。 1000V 1分間とかで検査されます。
投稿: たかじん | 2023年7月 3日 (月) 22時22分
たかじんさんがおっしゃる通りで、FreeDSP Catamaranの開発をしてるときDIYAudioフォーラムで開発中の回路を公開しながら進めていたのですが、欧州のメンバーから強くバランス出力への要望がありましたね。 そこで別案としてRCAピン出力を差動で出力するという回路を考案して入れてみました、回路的には多重帰還のLPFのリファレンス電圧を抵抗で浮かせたRCAピンのコールド側と同じ電位でスライドするようにしたものですが、クラス2ばかりの日本の環境でも何台もアンプを接続するチャンデバではハム音が出るケースがありますが、そんな時でも殆んど聞こえなくなる効果がありました。
投稿: HILO@町田 | 2023年7月 3日 (月) 22時51分
HILO@町田さん
なんと。 バランス入力でもGNDが完全につながってしまうとループになってしまいますしね。 GND線を10Ωくらいで浮かせれば軽減できそうです。
それにしてもRCA端子で差動出力とは、なかなかのアイデアですね。
アースから絶縁されたシャシーの電位は機器によってまちまちですけど、RCA端子を接続することで同じ電位へと収まります。でも、たくさんの機器がつながってくると厄介な物(暴力的な輩?)も出てくるのですね。
長岡氏の方法でテスタでシャシーの電位をみると20Vくらい出ている機器もありました。そういうのが複数台あると干渉してハムが出そうな気がします。
投稿: たかじん | 2023年7月 5日 (水) 21時54分
> アース線を両極接続したダイオードで浮かせているんですね。
>説明によれば電位差6Vまでカットできると書いてあるので10直列ダイオードなのでしょう。
お伺いします。
これって、6Vのバリスタを入れても同じになるのでしょうか?
バリスタでは、ツェナーダイオードですが。
投稿: hiroban2 | 2023年10月 4日 (水) 20時37分
hiroban2 さん
バリスタで6Vなど低いものはよく分からないですが、AC100Vラインに入れたりするタイプは基本的にサージノイズからの保護で、大きなエネルギーを吸収することができます。
定格電圧を超えない限り、邪魔をしないという点は優れていますね。
複数回サージを吸収するとショートモードで壊れるというのが難点ではありますが。。。
GNDに入れて効果を発揮するかどうか、何とも分かりません。
投稿: たかじん | 2023年10月 5日 (木) 21時18分