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2022年10月15日 (土)

エミッタ抵抗レスなアンプを簡単に実現する方法?

先日の記事でエミッタ抵抗などを取り除いたアンプを紹介しましたが、エミッタ抵抗を取り除きつつ熱暴走しないアンプが簡単に実現できるかもと思ったので、ちょっと基板を作って実験してみました。

Diamondbuf_00

いわゆるダイアモンドバッファです。

 

教科書に載っている、どこにでもある回路です。Q1,Q2を回転してVbeの繋がりを分かりやすくしてみると以下のようになります。

Diamondbuf_01

Vbeの和が等しい回路のコレクタ電流Icの積が等しくなるというギルバート氏のトランスリニア原理になっていることがわかります。(R1,R2を簡易的な定電流源として考える)

 

 

 

トランスリニア原理とは

故 上條信一氏がトランスリニア・バイアス回路について、分かりやすく説明していらっしゃいます。

トランス・リニア・バイアスによるパワーアンプ

トランスリニア回路とはバイポーラトランジスタの指数特性を利用した回路です。

トランスリニアとは transconductance linear with current の意、ギルバートセルで有名なバリー・ギルバート氏 の発明です。

トランスリニア原理によると、下図のようにVbeの和が等しい回路のIcの積は等しい。この原理から乗算、除算、諸々の回路に応用されてます。

 

以下の回路例は非常に分かりやすい。

Tl0

上のダイアモンドバッファで説明するとIc1・Ic2=Ic3・Ic4が成り立つのでQ1,Q2にIcが流れ続ければQ3,Q4にも流れ続けるということ。積なのでIc3およびIc4がゼロになることは無いってことです。

シミュレーションしてみると以下のような電流波形となり、コレクタ電流Icが枯れないトランスリニアバイアスのアンプとして動作しているのが解ります。

Diamondbuf_02

Icが枯れないSEPP回路はNPN/PNPトランジスタの切替りによるスイッチング歪が原理的に発生しないというメリットがあります。ただし、

トランジスタの発熱による熱暴走が起きる可能性

を考えなければいけません。

 

なので、通常はエミッタに抵抗を入れて動作電流が走っていかないようブレーキを掛けます。ところがエミッタ抵抗を入れるとトランスリニア原理が成り立たなくなります。

 

 

熱暴走とはVbeの温度特性により、デバイスの温度が上昇するとIcが増え、その増えたIcにより更に発熱が増えていくというアレです。でも電源電圧が低かったり動作電流が極端に小さかったりして、そもそもの「発熱」が少なければ熱暴走しません。

電源電圧が±5V以下、かつ動作電流が5mA以下なら大丈夫な可能性が高いです。

 

コレクタ損失Pcは 5V x 5mA = 25mWで、TO-92の熱抵抗は150~350℃/Wですので、仮に250℃/Wで計算すると、250℃ x 25mW = 6.25℃ ほど上昇することになります。

この発熱によりVbeが-2mV/℃ほど低下しIcが増える・・・とまあ、計算してもよいのですが、出力振幅による負荷電流も計算していくとややこしくなるので、

 

ざっくり

許容コレクタ損失 300mWのTO-92トランジスタでは定常状態において30mW以下なら熱暴走しにくい領域と考えてよいかと思います。(周囲の空気が入れ替わる。負荷はインピーダンス30Ω程度のヘッドホンという特定条件であれば)

 

 

 

 

トランスリニアバイアス回路

以下の回路は、黒田徹氏が考案されたシンプルなトランスリニアバイアスのアンプを極力単純化してヘッドホンアンプに転用したものです。SoundRABBITという基板を頒布していました。BlueSnowDACのポストアンプも基本は同じ回路です。これらもIcが枯れないバッファです。動作電流と電源電圧を抑えているため温度補償なしで熱暴走しません。

Diamondbuf_03

オペアンプの出力を強化するバッファ回路です。最大コレクタ電流=2Aというトランジスタを使っているのでオペアンプ単体では到底到達できない高出力電流の駆動回路になり、音もとても気に入っています。

 

ただ、問題は

オペアンプの種類によって発振してしまう

ところです。

SoundRABBITの電源は±5VでBlueSnowDACは約±9V。電源電圧が高くなるとより発振しやすくなるようです。特に高速・低ひずみを謳っている高性能なオペアンプで発振してしまうのが心残りになっていました。

 

 

また、変形として以下のような接続でもトランスリニアバイアスになりますが、

Diamondbuf_05_20230114171601

Q21とQ24、Q22とQ25の発熱量が異なるため同じVbe電圧を得るには熱平衡をとる必要があります。簡単にいうと終段の熱暴走に注意です。(おそらく極小電流でしか安定しません)

とはいえ、ダイオード接続しているトランジスタがないので、すべてのトランジスタが仕事しているって所は気分いいですよね。

 

 

 

前置きが長すぎました・・・

ようやく本題です。

 

カスコード武装したダイアモンドバッファ

という訳で、電源電圧を高くしても熱暴走しないダイアモンドバッファの基板を試作してみました。 とは言っても出力側のトランジスタにカスコードのトランジスタを設けただけです。 この考え方はデンオンのPMAシリーズUHC-MOSアンプでソース抵抗レスを実現しているのと同じです。(回路は違いますが、終段デバイスを発熱させない=熱暴走しないという手法)

Diamondbuf_04

出力段(Q14,Q15)の発熱が抑えられるため高いアイドリング電流に設定することが可能になります。 D1、D2はカスコードTRのバイアス分の嵩上げです。0.6vで足りない場合はLEDでも良いかもしれません。

ここのブログを定期的に読んでくださっている皆さんは、アイドリング電流で音が大きく変化することはご存知かと思います。 例えばヘッドホンアンプHPA-12の純A級バージョンは30~40mAほどのアイドリング電流を流しています。

熱暴走させないために電流を絞ってしまうのは我慢できませんよね。私もです(笑)

 

Icが枯れないといってもアイドリング電流の増減にちゃんと応えてくれます。不思議ですが増やすほど魅力が増す音になるのです。

 

 

 

Diamondbuf_05

ということで、基板はこんな感じになりました。 大きめなトランジスタがカスコードTRで発熱分を受け持っています。ダイヤモンドバッファを構成する4個のトランジスタの発熱はほんのり暖かい程度。

 

終段におおよそ30mA流してみました。

Img_0001

という訳でボチボチ実験を開始していますが、NJM2114DDを±12V電源でも発振せずに使えているところを見ると少し期待できるかもしれません。

トランスリニア云々よりも「エミッタ抵抗がないという所が魅力」かと思っているのですが、本当の所はどうなのでしょう。

 

 

この方式(カスコードブートストラップ)は、ヘッドホンアンプやラインバッファだけでなくパワーアンプにも使えるのはデンオンが30年も前に市販していることで証明されています。

アンプを設計する時に覚えておくと良いかもしれません。

 

 

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電子回路」カテゴリの記事

コメント

SoundRABBITのパワーアンプ版?興味津々です。

あ、SoundRABBIT発表前にも
トランスリニア方式アンプを発表されていましたっけね。
基板配布が無かったので手が出なかったのですが、
今回は頒布基板の発表は想定されているのでしょうか?

sawanoriichi さん

トランスリニアのパワーアンプは、CQ出版からフルキットとして販売されていました。

今回のものはパワーアンプとしてではないのですが、エミッタ抵抗レスのアンプというのは一つの夢でもありますね。
再現性が高くできるのであれば、考えても良いのかもしれません。

初めてコメントします。
テクニカルブレーンのアンプを同社試聴室?で聴きました。
鈴木勲のレコード「Brow up」はベース弦の擦れる音やパーカッションやシンバル・ハイハットの生々しさを感じ、キース・ジャレット「ケルン・コンサート」は幻想的に音が空中を飛び交いつつも圧倒的なフォルテシモ感で全てが衝撃的でした。

toshi300 さん

はじめまして。
テクニカルブレーン社の試聴室(カフェ?)は、Youtubeで見ましたが興味深いです。
シンバルやハイハットの生々しさとは、、、すごそうですね。
あのアンプは変態的なこだわりで、みるからに良さそうな気配を感じます。私もいちど聴いてみたいなって思います。

マランツのHDAMがこのタイプのダイヤモンドバッファを使ってますね。
このような回路のトランジスタを選ぶ時の考え方としては
Q11、Q12、Q14、Q15はVbe1-2個分の電圧しかかからないのでVce-Ic特性の飽和電圧が低いもの、
Q13、Q16はコレクタ電流の定格に充分余裕がありCobが少ないものというので合っているでしょうか?

各トランジスタ特有の音やデータシートにない特性の凹凸はあると思うので、理屈だけでも良い音が出るとは限らないと思ってはいますが。

karsk さん

HDAMでエミッタ抵抗レスバッファを採用していたとは、知りませんでした。 失礼いたしました。電源電圧はどのくらいでしょうか? 15Vを超えるような電圧であれば、結構技術レベルが高いと思われます。

カスコードブートストラップ部のバイアスは、上の例では1N4148を使っています。これは一般的なトランジスタのVbeより少しだけ電圧が高めに出るダイオードだからです。 LEDなどで意図的にバイアス電圧を上げても良いかと思います。

各段の動作電流が少ないとfTが低くなり発振しやすくなるためお気を付けください。
音質に関してはおっしゃる通りです。 回路構成、トランジスタの物性、そして動作電流、周辺部品の組み合わせ、電源、などなど要因がとても多いですね。

マランツのHDAM SA3は出力トランジスタがカスコードになっていますが、安定のためにQ11、12、14、15にあたるトランジスタのエミッタに10Ωが挟まっているので抵抗レスではないです。
また、電源は±20V前後で使われているようです。記事の趣旨が抵抗レスなのに失礼しました。
ダイヤモンドバッファの出力トランジスタのベース-ベース間に容量の大きい電解コンデンサを挟むのもたまに見かけますね。

karsk さん

なるほど。 エミッタ抵抗を10Ω入れているのですね。 それなら熱暴走の危険もなく安心です。

カスコードは熱の分散という意味でも、高周波特性を伸ばす意味でもメリットがありますが、おっしゃるようにVCE電圧が低い場合は飽和領域に近い部分を使うという危険さもありますね。
スレッショルド社のSTASIS回路は、抵抗分圧して半分の電圧を受け持つようなことをやっています。

バイアス部にコンデンサを入れると音の印象が結構かわるので、そこで調整しているんでしょうね。

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