TTA1943/TTC5200 東芝のコンプリメンタリパワートランジスタの謎
オーディオ用パワーアンプの終段に適したコンプリメンタリのパワートランジスタがどんどん製造中止になり、使える品種は限られてきています。そのなかで東芝が製造している以下の3種類について調べてみました。
2SA1943 / 2SC5200
TTA1943 / TTC5200
2SA1943N / 2SC5200N
2SAxx、2SBxxなどトランジスタの型番を決めていたJIS規格が1993年に廃止になり、メーカー独自型名になりました。ほぼ同じスペックと名称を引き継いでいるこれら3種類のトランジスタに違いはあるのでしょうか?
まずは、各トランジスタのスペックを比較してみましょう。
スペック比較
PNPトランジスタ
2SA1943 | TTA1943 | 2SA1943N | |
生産開始時期 | 1990年頃 | 2009-3 | 2012-8 |
パッケージ | TO-264 | TO-264 | TO-3P |
構造 | 三重拡散形 | エピタキシャル形 | 三重拡散形 |
VCEO | -230V | -230V | -230V |
Ic | -15A | -15A | -15A |
hFE(-1A) | R:55~110 O:80~160 |
80~160 | 80~160 |
Pc | 150W | 150W | 150W |
VCE(sat) | -3.0Vmax | -3.0Vmax | -3.0Vmax |
fT | 30MHz | 30MHz | 30MHz |
Cob | 360pF | 240pF | 360pF |
NPNトランジスタ
2SC5200 | TTC5200 | 2SC5200N | |
生産開始時期 | 1990年頃 | 2009-3 | 2012-8 |
パッケージ | TO-264 | TO-264 | TO-3P |
構造 | 三重拡散形 | 三重拡散形 | 三重拡散形 |
VCEO | 230V | 230V | 230V |
Ic | 15A | 15A | 15A |
hFE(1A) | R:55~110 O:80~160 |
80~160 | 80~160 |
Pc | 150W | 150W | 150W |
VCE(sat) | 3.0Vmax | 3.0Vmax | 3.0Vmax |
fT | 30MHz | 30MHz | 30MHz |
Cob | 200pF | 145pF | 200pF |
いかがでしょう。似ているけど、ちょっとだけ異なる点がありますね。リード品のトランジスタを大量リストラした東芝が、わざわざこの3種類を用意する必要があるのか理解しにくいです。
特性的にはCobが小さいTTA/TTCが優れているように見えるので、パッケージが一緒の2SAxx/2SCxxと TTAxx/TTCxxは、後者をNEWモデルとして過去の製品を止めても問題なさそうな気がします。
それに対して「N」はパッケージがよくあるTO-3Pになっているため他社のトランジスタからの置き換えを容易にしています。また、hFEランク「O」のみです。
VCE-Icカーブ比較
縦軸のスケールが異なっているので分かりにくいですね。
よく見るとTTA/TTCのみカーブが異なっているようにも見えますが良くわかりません。
というより、2SA/2SCと「N」とでは、測定データ(グラフ)が同一なのでデバイス的には何も変更していないということの表れともとれますね。
市販アンプでは
使用しているアンプを探してみると、
2SA1943 / 2SC5200
https://www.luxman.co.jp/product/l-590ax
https://www.luxman.co.jp/product/l-595al
https://www.luxman.co.jp/product/l-550ax
という具合にラックスマンの純A級のプリメインアンプには2SA1943/2SC5200の写真がカタログに掲載されています。AB級モデルは鮮明な写真がないため不明です。ただ、同じトランジスタを大量に購入するというメリット、A級フラッグシップ機と同じ音の傾向を下位モデルへ展開するという目的からも同じトランジスタを使っている可能性が高いような気がします。
上の写真はLuxmanのM-10X(160万円)のパワーアンプブロックです。ハッキリとは見えませんが2SA1943/2SC5200と思われます。
また、エソテリックのパワーアンプもTO-264の形が見えるのですが「2SC5949/2SA2121」と思います。カタログの写真でははっきり見えません。
2SA1943N / 2SC5200N
https://www.accuphase.co.jp/cat/m-6200.pdf
https://www.accuphase.co.jp/cat/p-4500.pdf
https://www.accuphase.co.jp/cat/e-5000.pdf
などアキュフェーズのハイパワーなモデルに「N」が搭載されているようです。E-5000はボヤけていて良く見えませんが、P-4500やM-6200などバイポーラトランジスタを使っているモデルと同じトランジスタの可能性が高いと思います。
上の写真はAccuphase M-6200(モノラル1台90万円)のパワーアンプブロックです。ベース抵抗がチップ品というのも気になりますが、ブロックケミコンのアース配線の方がもっと気になる。
TTA1943 / TTC5200 を使っている市販アンプの写真は残念ながら見つかりませんでした。
トランジスタはCobが小さい方が高域が伸びるため、単純に特性が良さそうなTTA/TTCを秋月電子で買って使いましたが、実のところ音質比較していません。
まとめ
結論から書くと
2SA1943 / 2SC5200 -> TTA1943 / TTC5200 高域特性改善&単一hFEランク
2SA1943 / 2SC5200 -> 2SA1943N / 2SC5200N パッケージ変更&単一hFEランク
音の方は実際に聴き比べしないと判断できません。
ということになりますが、高級オーディオメーカーがTTA/TTCを聴いていないハズもなく、その上でCobが大きな2SA/2SC や「N」を使っていることを考えると、音質的な何かがあると勘ぐってしまいます。
TTA/TTCは高域がキレイで爽やかな印象ですが、LAPTと比べてしまうと低域の押出し感というかパワー感がもう少し欲しいと思ったりもします。(低音ギークな私の個人的感想です)
互換トランジスタ
なんと、2SA1943 / 2SC5200はフェアチャイルド(現Onセミ)やUTC等が互換トランジスタを製造していたようです。
https://www.alldatasheet.jp/view.jsp?Searchword=2SA1943
https://www.alldatasheet.jp/view.jsp?Searchword=2SC5200
ネット上の一部では三重拡散形よりもエピタキシャル形のトランジスタの方が音が良いなんて話もあるので、Onセミのペアを使ってみるというのも面白いかもしれませんね。
https://www.digikey.jp/ja/products/detail/onsemi/FJL4215OTU/1057510
https://www.digikey.jp/ja/products/detail/onsemi/FJL4315OTU/1057395
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コメント
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>音質的な何かがあると勘ぐってしまいます。
十分な高音質が得られているのに新規品採用でキャラが変わるのを嫌ったとか?
>ブロックケミコンのアース配線の方がもっと気になる。
単電源??
>Onセミのペアを使ってみるというのも面白いかもしれませんね。
食指が動きかけました…。
海外メーカーでの採用実績も知りたいところですね。
投稿: onajinn | 2022年9月24日 (土) 23時53分
onajinn さん
確かに音が変わってしまうリスクもありますよね。
> 単電源??
あはは。単電源だったらウケますね。
海外メーカーのパワーアンプは、あまり調べていませんがサンケンが多いような気がしています。まあ、日本のメーカーもちょっと前まではサンケン(LAPT)が多かったですし。
先日、MJを立ち読みしたら最新のマッキントッシュが5本足のサンケンのトランジスタを使ってました。温度補償が内蔵されているので少スペースなんですよね。
投稿: たかじん | 2022年9月25日 (日) 09時16分
TTA,TTCのペアについてですが、それぞれプロセスが異なるトランジスタとはびっくりです。
かつてヤマハから発売されていた2ストローク500CCのバイクRZV500Rの前2気筒と後ろ2気筒がピストンリードバルブとクランクケースリードバルブの違和感に通じます。
同調をとるのが大変だったらしいです。
M-6200のブロックケミコンの処理はGNDの配線が細いのも気になりますが、整流前と後でバスバーにスリットいれて2系統で配線してほしい所です。ハイエンドクラスなので他メーカーはもっと情熱をもって設計しているのが説明から伝わりますが、さらりとしていますね。
投稿: つに | 2022年9月26日 (月) 20時45分
TTA/TTCが市販のアンプで使われていない理由に関して、想像するしかないのですが、コストの問題もあるのではないでしょうか。
半導体の価格は使用するプロセスで大きく変わってしまいます。エピタキシャルは、その分高くつくのかもしれませんね。(パワー素子なので、厚く成長させる必要があるのかも。)
N型にしても、Cobが小さくなっているので、同じ三重拡散形でもプロセスまたはプロセス条件を変えていると思われます。
>音質的な何かがあると勘ぐってしまいます。
設計者は、思った素子を使わせてもらえなくて、悔しがっている可能性もあります。
投稿: フルデジタル | 2022年9月26日 (月) 20時56分
つにさん
+側振幅と-側振幅でデバイスが異なるというのは、厳密にコンプリメンタリとしてカーブが等しくないことを考えると、そんなに細かく気にしなくても良いような気もします。 ただ、デバイスメーカーとしてコンプリのペアとして違う物を組んでくるところに驚きがありますね。
それに、準コンプリの場合なんかは、デバイスが同じでもコレクタでドライブする方とエミッタでドライブするほうで、全く特性が異なりますからね。
最近のYAMAHAはクロスシャント方式で、これも+側と-側とで経路が異なるという不思議さがあります。 YZF-R1は不等間隔爆発ですし、もはや伝統なのかもしれません。
ブロックケミコンの中点(GND点)には、スピーカーに流れた電流のリターンもL/Rそれぞれありますし、どこかでL/Rリターンとトランスのセンタータップ配線をミックスしてしまう気持ち悪さは普通の回路設計者なら我慢できないと思われます。
フルデジタルさん
なるほど、コスト要因ですか。 上に挙げたアンプのように多数パラの場合はわずかなコスト差も大きく跳ね上がってくるので十分考えられますね。 1台160万円のアンプだったとしてもコストは大事ですから。
デジキーでは下記のようになっていました。 「N」はパッケージが小さいので他よりは安いようです。
2SA1943-O(Q) ¥473
2SA1943N(S1,E,S) ¥387
TTA1943(Q) ¥428
投稿: たかじん | 2022年9月26日 (月) 22時56分