3.5mm 4極コネクタの怪
グランド分離ジャック搭載で話題になったソニー NW-ZX2の3.5mmジャックのアサインは、先端からL+/R+/L-/R-と書いている記事がこちらです。
そしてリケーブル用の配線やプラグを扱っているオヤイデのwebサイトには、
以下のような絵が乗っていて親切に説明しています。 左下にSONY ZX2は先端からL+/R+/L-/R-って書いてますね。(根元側「R-」に注意して続きを読むと分かりやすいと思います)
これらの情報を信じて、SB32+PRO DoPの3.5mmジャックのアサインをしていました。(GND分離設計)
ところが、同じくソニーのMDR-1A、M1STなどヘッドホン側は、テスターで調べたところ、先端からL+/R+/R-/L-となっていました。
< 実物をテスターで見てみるとこのアサインだった >
あれれ、上記Webサイト情報と違うゾ!!
ウォークマン側のアサインでも、L-とR-が内部電源部のGNDへ繋がっているため、特に不具合は発生しません。共通GNDによる左右間の干渉がなくなる効果もあります。もちろんSB32+PRO DoPもGND分離効果あります。
実は、下のような回路でSTトランスと3.5mm 4極ジャックを使い、MDR-M1ST/T50RP改をバランス駆動する実験をしていたときに、上記のwebサイトとアサインの違いを発見しました。
< 3極アンバランス4極バランス接続を共立する方法 >
信号トランスを介すこの回路では、
3極プラグを挿すとGND共通接続
4極プラグを挿すとバランス接続
になってくれるという便利な回路になります。
しかし、4極プラグのL-とR-のアサインが入れ替わると、音がモノラルに聞こえます。
トランスは音質に影響があるため、昔、実験した中で高評価だったST-48を使いました。41A、42、46でも良いはずです。
ST-41A 200Ω:4,8Ω 巻数比 4.87:1
ST-42 300Ω:4,8Ω 巻数比 5.97:1
ST-46 400Ω:4,8Ω 巻数比 6.87:1
ST-48 600Ω:4,8Ω 巻数比 8.41:1
という仕様のアウトプットトランスで、どれもコアサイズは同じ0.7W出力のものです。ワンサイズ小さいSTトランス(重さ13~14g)でヘッドホンを駆動すると、歪が増えるのがハッキリと分かってしまうため小さいSTトランスはヘッドホン駆動にはお勧めできません。
接続は1次側にアンプ、2次側にヘッドホンを接続します。減衰の比率=巻数比です。1/4.87なら13.7dB減衰、1/8.41なら18.5dB減衰します。残留ノイズ(ホワイトノイズ)もいい具合に減衰してくれて高感度イヤホンでもGOODな状態に。
ということで、3.5mmジャックを使ったバランス接続の例でした。
トランスを介したこの方式はいわゆるバランスアンプ(BTL)と違ってアンプ回路は2チャンネルのみでOKです。コネクタ・ケーブルを4極にしてあげると、ちゃんとバランス駆動になります。
バランスアンプは、振幅が2倍になるためパワー4倍になる特性がありますが、このトランス方式では逆に減衰します。もともとパワーが有り余っている据え置き型ヘッドホンアンプなら、パワーをさらに4倍にする必要はありませんしね。トランスの選定次第では1倍あたりにできると思います。トランスを使って出力電圧を上げてヘッドホンを駆動するのはあまり良い結果が得られないと思いますのでご注意ください。
■音質向上?
バランス転送とGND分離とでは、トランスの有/無もあって「正確な評価は難しかった。」というのが正直な感想です。信号トランスを通すと音が良くなる。と書いている人もweb上で散見されますね。でも、個人的には、そう単純な話ではないと考えています。
人は、どういう音を良い音に感じるのか? という部分が深く関わっているんじゃないでしょうか。
信号トランスを通すと音のバランスが変わり、傾向としてはマイルド傾向になることが多いと思います。今回使ったのはST-48というトランスでは、高域のキレ・伸びが弱まり低域のパリッとしたベース音がほわっと丸くなります。
こう書くと帯域が狭くなったように取られるかもしれませんが、いわゆるカマボコ型のような帯域の狭さはありません。それよりもボーカルやトランペットくらいの音域の響きが艶やかで、より音楽を聞かせるような雰囲気に変ります。
オーディオ機器として重箱の隅をつつくような聴き方(解析や評価)ではなく、もっと純粋に音楽を楽しみたいと思うような聴き方をする人なら、このボーカル領域の変化は「音が良い」と感じるには十分と思います。
ようするに、トランス挿入による音の変化は人によって評価が二分するということです。
低価格なSTトランスではなく、タムラやスウェーデンのルンダールなど、高級オーディオ的にもっと高評価なモノがあります。それらを使うことで僅かに劣化する高域や低域を改善することもできるかもしれません。
■3線ケーブルと4線ケーブルの音の差
こちらはトランスを介さないで聴き比べできますので、はっきり言えます。
アンプ側のジャックがGND共通(3極)でも内部配線を極太にしていれば結構大丈夫なようで、完全なGND分離の4極ジャックとの差はわずかでした。ですが、ヘッドホンケーブルの3線と4線を比較すると、広がり感と音の粒の分離感は一度体感すると元に戻れないくらい差ががあり、録音の現場を知らなくても「こっちが正解だ」と断言できそうな気になります。そのくらい4線ケーブルの方が良いです。
AKGなどでは、リケーブル可能なタイプでも本体に3極コネクタが使われていてGND分離配線にできません。もちろんバランス駆動もできません。4極コネクタ化してリターン経路を独立できると音質改善にもつながりますので、もっと積極的に4極端子化してもらいたいですね。実験では、Fostex T50RPの4極化で相当な音質向上を体感できました。
おそらく、共通GND配線が長いと左右の広がり感が低減するだけでなく、音の混濁感にもつながるのだと思います。アンプ接続部のプラグが3極でも、そこからヘッドホンまでのケーブルが4線になっているだけで差があります。
4線化のクロストーク低減についてソニー MDR-Z7のwebサイトでも説明されているようです。
さすがに絵が上手ですね。
※)この3.5mm4極コネクタの話は、4.4mm5極バランスコネクタを否定するものではありません。自作なら安価な3.5mm4極コネクタで3極アンバランス接続と、4極バランス接続とが両立できるよ。という提案です。 4.4mm5極コネクタがオスメスともに1000円以下で買えることを願ってます。
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トランスは2次側の負荷インピーダンスによって特性が変わりますので負荷が変動するスピーカーやヘッドフォンに直接接続すると現実にどんな動作をしてるのかよくわからない部分がありますね。低域もスペックシートを見比べるとでかければでかいほど正義という感じになりますし。
投稿: levi | 2020年9月 3日 (木) 09時02分
ぺるけさんが秋月のPCM2704DACキットにタムラのトランスフィルターを
組み合わせて作品を発表されていましたね。とても音の評判が良いとか。
投稿: DSK | 2020年9月 3日 (木) 19時01分
levi さん
おっしゃる通り、2次側がOPENにならないように負荷抵抗をぶら下げておく方が良いですね。
低域に関しては、コアサイズがモノを言うのかもしれません。真空管アンプもアウトプットトランス次第で音が生きるか死ぬか決まってしまうくらい重要ですよね。
DSK さん
そうそう、ぺるけさんはDACのポストフィルタにトランスを使っていました。確かに高域のノイズは落とせます。そして、キツイ音が出る格安DACをうまく料理していると思います。
投稿: たかじん | 2020年9月 3日 (木) 21時44分
実はMDR-100Aもバランスリケーブル対応ですが、M1STと同様のL+R+R-L-でしたね。
なのでいつもコールド側をクロスさせたケーブルを作ってましたw
投稿: くろ。 | 2023年6月 3日 (土) 17時54分
くろ。さん
情報、ありがとうございます。ソニーのヘッドホン「L+R+R-L-」で行こうとしているみたいですね。
投稿: たかじん | 2023年6月 4日 (日) 09時57分
「コネクタ・ケーブルを4極にしてあげると、ちゃんとバランス駆動になります。」
これは間違ってますね。
恥ずかしいので訂正したほうがいいですよ。
投稿: | 2023年6月 5日 (月) 23時15分
「ちゃんと」という表現は曖昧ですね。
正確に書くなら「グラウンド・フローティング・ガルバニック絶縁・バランス駆動」ですかね。
この当時、ちゃんとしてない=HOT/COLDが対称ではない信号を送り込んでいたソニーのヘッドホンアンプに対して”ちゃんと”HOT/COLDを対称に駆動していると表現したかったのかもしれません。
ご存じと思いますが、ソニーTA-ZH1ESはHOTをDクラスアンプで駆動、COLDをLUXMANでいうところの「ODNF」のような歪成分を抽出した逆相歪成分で駆動するためにバランス端子を使っていました。
シングルエンド駆動、バランス駆動とは違って、ODNF的駆動もバランス端子ならできるという面白い例ですね。
投稿: たかじん | 2023年6月 6日 (火) 21時44分