ヘッドホンの鳴らしにくさ選手権
DAP(Digital Audio Player)が一部界隈で流行って久しいのですが、ヘッドホンの「鳴らしやすさ」「鳴らしにくさ」の基準として、ヘッドホンの感度・インピーダンスとアンプの出力電圧の関係から「得られる音圧が十分か?」という視点によるもの。内部電源電圧の制約が厳しいDAPならではの発想です。
個人的には、音量を出しにくいというのとは別の視点で「良い音で鳴ってくれない」方が重要とは思います。
< 最強に鳴らしにくい AKG K240 monitor >
以前にも、同様のことを書いていました。
本日は、HPA-1000の出力と合わせて、各種ヘッドホンの鳴らしにくさをピックアップしようと思います。
HPA-1000は、電源電圧が±18V程度と高いものの、電圧増幅部にカストード回路を採用しているので出力電圧がかなり制限されています。大体、±12Vあたりでクリップし始めます。実効値で表すと8.5Vrms程度です。
前回、鳴らしにくさ最強の座に君臨したAKG K240 monitorは製造されていないのですが、昔から鳴らしにくさでは定評があったようです。
目標音圧は108dBとしました。音圧が圧縮された近年のJPOPなどを聞くとかなりの爆音になるはずです。音圧低めなクラッシックやジャズなどピークの瞬間だけ108dBというならば、まったく許容範囲と思います。
モデル名 | imp. | 感度dB | 必要なパワーmW | 必要電圧Vrms |
K240 monitor | 600 | 88 | 100 | 7.75 |
K240 Studio | 55 | 91 | 50.1 | 1.66 |
K712 PRO | 62 | 93 | 31.6 | 1.40 |
MDR-CD900ST | 63 | 106 | 1.58 | 0.31 |
MDR-M1ST | 24 | 103 | 3.16 | 0.28 |
T1 2nd | 600 | 102 | 3.98 | 1.55 |
HE6se | 50 | 83.5 | 282 | 3.75 |
HD 599 | 50 | 106 | 1.58 | 0.28 |
HD 650 | 300 | 103 | 3.16 | 0.97 |
HD 800 S | 300 | 102 | 3.98 | 1.09 |
DT 990 E/600 | 600 | 96 | 15.8 | 3.08 |
DT 990 PRO | 250 | 96 | 15.8 | 1.99 |
T50RPmk3g | 50 | 92 | 39.8 | 1.41 |
TH900mk2 | 25 | 100 | 6.31 | 0.40 |
ATH-M50x | 38 | 99 | 7.94 | 0.55 |
ATH-ADX5000 | 420 | 100 | 6.31 | 1.63 |
DAP視点では、必要電圧だけで評価されているようです。
インピーダンスが300~600Ωと高くても感度が高い場合は、パワーはあまり必要ではなく、汎用OPAMP出力だけで十分ことたります。例えば、ベイヤーダイナミックのT1 2ndは600Ωですが、感度が102dBもあるため、電圧1.55Vrms、パワー約4mWで十分な音量がでるはずです。
しかしながら、T1 2ndを「良い音で鳴らしきる」なら安物のOPAMPではなく、しっかりした駆動アンプが必要です。そういう意味でT1 2ndも鳴らしにくいと定評(?)があります。
K240 monitorの後継機種であるK240 Studioもインピーダンスが55Ωと下がったけどパワーが50mWも必要なため、ヤワなヘッドホンアンプでは酷い音になる可能性が高いですね。
< 今回登場した難敵? HIFIMAN HE6se >
HIFIMANのHE6seは、インピーダンスが50Ωと一見すると平凡なように見えて、感度が83.5dBと異様に低いため、必要なパワーが約300mWと、とてつもない数値になっています。上の表は108dBを得るための数値で計算しているのですが、メーカーは2Wの出力のアンプが必要とかいてあり、スピーカー用のパワーアンプから端子を変換して駆動することを推奨しているくらいです。
HPA-1000では、50Ω時、1.4Wほど出力できるため、まあまあ行けるんじゃないでしょうか。
さすがに価格が価格なので、試しに買ってみるという訳には行かないですね。
数値上では何の見どころもないSONY MDR-M1STは、なぜか駆動アンプに対する感度が高く、アンプの音を聴き分けるモニターヘッドホンとして優秀です。ipadやPC直刺しでは、まったく平凡な音でしか鳴らないのに、アンプが良いとクラスを超えた表現力で迫ってきます。
不思議ですよね。
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コメント
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>アンプの音を聴き分けるモニターヘッドホンとして優秀です。
成程、これを低い評価をされている方は個人的好みの問題以外の可能性もありますね。このようなことはヘッドホンに限らないでしょうけど…。
投稿: onajinn | 2020年8月16日 (日) 17時49分
onajinn さん
同じくモニターのMDR-CD900STと比較する人が多いので評価が分かれるのかもしれませんね。900STはNE5532クラスのOPAMPでも結構しっかり鳴ってくれて使いやすいと思います。
ところが、M1STはOPAMPの嫌な響きをモロに出してしまう。特にボーカルの領域と高域のヌケがシビアです。PC直刺しでは、もっさりして(鳴らしにくいと言われる)DT990proの方が正直良かったくらいです。
まあ、M1STの購入がきっかけでHPA-1000の開発に着手した訳ですから、結果オーライじゃないでしょうか(笑
ある程度しっかりしたアンプで鳴らすとM1STの良さが出てきます。OSC会場で聴き比べした時は、MDR-1AM2よりも格段に良いという意見が多かったです。
投稿: たかじん | 2020年8月17日 (月) 20時49分
僕と同じこと計算してる人がいて安心しました(笑)。
投稿: @ぽっけ | 2020年10月17日 (土) 11時53分
@ぽっけさん
音量だけで鳴らしにくい、鳴らしやすいと言っている人が結構多いですね。
本当の意味での鳴らしにくいヘッドホンは、「いい音で鳴らす」ために、しっかりしたアンプが必要な奴ってことだと思います。
投稿: たかじん | 2020年10月17日 (土) 18時30分
AKGのK712 proを買ってHPA-1000で聴いているのですが、音源によっては
一定音量以上出すと低音が歪んでしまいます。歪まない音源の方が多いのですが、
歪む音源と歪まない音源があるのが不思議です。
HPA-1000は指定の部品通りで作っています。他所でK712proのレビューを見ると、K712proは歪むという人と全く歪まないという人がいるようです。
一体何が原因だと考えられますか?
投稿: DSK | 2021年6月14日 (月) 13時58分
DSK さん
切り分けが必要そうですね。
HPA-1000がひずむかどうかは、スピーカーに繋げて聴いてみるというのも良いかもしれません。 8Ωなら2~3Wくらいまで鳴らせるので能率の高めなスピーカーなら割と普通の音量で聴けます。
K712proは持っていないので何ともいえないのですが、音量を上げるとボイスコイルが底打ちして歪むとか、ユニットが内部でびびりが出ているとかないでしょうか?
AKGにかぎらず、バラツキがあるのでハズレを引いてしまった場合、そういう事もあるかもしません。
投稿: たかじん | 2021年6月14日 (月) 21時29分
スピーカーは手持ちがないので今すぐは試せないのですが、以前使っていたインピーダンス32Ω/音圧感度95dB/mWのヘッドホンでは音量を大きくしても歪むようなことは起こりませんでした。
投稿: DSK | 2021年6月15日 (火) 11時25分
DSK さん
なるほど。 他のヘッドホンは平気ということはK712proの方が濃厚かもしれませんね。
アンプが正常だとしても音が歪むのは、
1.電圧による信号クリップ(出力電圧が過大)
2.電流供給不足によるひずみ増大(出力電流が過大)
が考えられます。
HPA-1000では、電源電圧が±18Vあれば、出力は±12Vくらいまでクリップしません。
投稿: たかじん | 2021年6月16日 (水) 21時41分