D級アンプの測定用フィルタを自作してみよう
D級アンプは、アナログのPWM式やデジタルのデルタシグマ式などいくつかの種類がありますが、どれも最終段を高速にスイッチングしています。そのスイッチング周波数は200kHzから500kHzに入るものが殆どです。(数W程度の小出力のフィルターレスD級アンプICでは1MHzを超えるものもあったと思いますが、ここでは省きます。)
通常、オーディオアナライザの測定帯域は500kHzほどあり、アンプ出力部LCフィルタでは取り切れないスイッチング成分の漏れ(キャリア漏れ)によって、計測が正しく行えないという不具合を引き起こします。
一体なぜ?
測定器の内部ブロック図をみるとわかりやすいと思います。入力のATT(アッテネータ)をAVE DET(アベレージ検出器)で見て調整しているのですが、そこまでは一切フィルタが入っておらずキャリア漏れにも反応してしまうのです。
測定用の80kHz LPFやA-WAITフィルタは後段に入っているため、これらの内蔵フィルタをONにしても誤検出を防げません。
キャリア漏れは人の耳には聴こえない音域、おそらくスピーカーも再生不能なほど高い周波数なので(JEITA基準の)計測上も無視することになっていますが、この辺はD級アンプの闇ですね。
解決策
そこで登場するのがD級アンプ測定用のフィルタです。測定器の入力に挿入することでキャリア漏れをカットします。AP社のAUX-0025というモデルが広く使われています。
ただ、これを買おうとしても約25万円とちょっとお高い。
という訳で、クローンを自作しました。
AUX-0025の内部回路は公開されていませんが、周波数特性カーブがしっかりと出ていますので、回路シミュレーションでそのカーブに近づくようにして製作する回路を決めていきます。
<自作したD級アンプ測定用フィルタの中身>
大きな電力を測定するので、抵抗などの許容損失にも気を付ける必要があります。3Wの抵抗を2パラで使いました。
<自作したD級アンプ測定用フィルタの回路>
R4の100kΩは、シミュレーターで値を決める際に追加した計測器の入力インピーダンス分で、実際に製作するフィルタには入れません。シミュレーションする時は、ご自身が使う歪率計の入力インピーダンスにしておくと良いと思います。
周波数特性を実測
計測用のものですから、特性をちゃんと見ないと意味がありません。使用部品により若干の特性ずれが発生しますので、測定しながら抵抗値で微調整する必要があります。
微調整した結果、
可聴帯域のリップルは0.1dB以内という狙い通りの値に収まりました。
ただし460kHzにピークが出ています。これは、内部のインダクタ同士で結合が起きてしまっているのだと思います。インダクタはクローズタイプにしないとだめですね。
<自作フィルタの実測結果(広域)>
青の点線の特性だったら完璧だったのに。。。そのうち部品を交換してみようかと思います。
<自作フィルタの実測結果(可聴帯域拡大)>
可聴帯域内は±0.1dB以内と完璧な値に収まりました。
高域ピークが残っているものの、歪率計のオートレンジの誤動作が起きなくなり正常に測定できるようになったので、とりあえずは良しとします。(D級のキャリアー周波数が460kHzあたりだとレンジ切換え誤動作を防げないかもしれません。)
自作フィルタの歪率も実測
10Vでループバック計測した結果、THD+N=0.0003%(計測帯域500kHz)という数値がでたので、このフィルタの歪率は一般のD級アンプよりも十分低くなっていると思われます。フィルタ自体が歪を発生していたら本末転倒ですからね。
これなら測定に使っても支障ないでしょう。
さらに大きな電圧をかけたときにどうなるかまでは検証できていません。50Vrmsくらいまでかけて歪が増えなければ本当の意味で合格点を出せると思います。AUX-0025は200Vまで使えるとのこと。さすがです。
最後に、本家のAUX-0025のフィルタ特性を見ておきましょう。高域ピークを除くと、そんなにかけ離れていないことは分かりますね。
以下のように、スイッチングアンプのスペクトルで比較すると分かりやすいですね。この例は、おそらくデルタシグマ変調によるノイズシェーピング(高域へノイズシフト)が起きるアンプのスペクトルと思われます。
100kHz程度まではレベル差が少なく、200kHz以上で40dB以上の減衰特性があることを示しています。このフィルタを挿入しても20kHzの第5高調波までは検出可能で、デジタルオーディオ用の20kHz LPFフィルタと違って(ズルくない)まともな歪率を知ることができます。
D級アンプICのデータシートの測定条件に"AUX-0025 filter"と書かれていることもありますよね。それがこのフィルタを使ったものです。
TPA3255のデータシートから。 AUX-0025を使ったグラフは20kHzまで綺麗なカーブを描いています。
D級アンプを自作している人はwebで沢山いらっしゃるのですが、歪率など測定結果を出している人は全く見かけません。
このフィルタさえ作ればAB級と同じように測定できるようになりますので、D級アンプを検証する際はぜひ測定用フィルタも自作してみてください。なおD級アンプの多くはBTL出力のため測定器もバランス入力を備えている必要はあります。このフィルタもバランスタイプにしてあります。
皆様のお役に立てれられれば、と思います。
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takmiです。この記事を参考にしてD級アンプ測定用フィルタを自作いたしました。
おかげ様で市販の廉価なD級アンプモジュールで結構遊べております。
貴重な情報を公開していただきありがとうございました。
投稿: takmi | 2021年4月10日 (土) 15時33分
takmiさん
それは良かったです。 記事に書き忘れていましたが、このフィルタはBTL用です。歪率計もバランス入力タイプが必要です。
投稿: たかじん | 2021年4月11日 (日) 19時12分
たかじんさん、コメントありがとうございます。了解しました。
当方、これから低歪発振器を自作しようか、という状況です。
また記事を参考にさせていただきますので
今後ともよろしくお願い申し上げます。
投稿: takmi | 2021年4月12日 (月) 00時57分
takmi さん
低ひずみ発振器の自作ですか。 素晴らしいですね。
投稿: たかじん | 2021年4月17日 (土) 08時45分
たかじんさん
実際に低歪に仕上がるかどうかは作ってみないと判らないのですが
(最低限の)歪率測定に使える発振器になってくれれば、と思ってます。
投稿: takmi | 2021年4月18日 (日) 09時12分
takmi さん
低ひずみ発振器、ひずみ率計などの回路を調べたことあるのですが、さすがに自作するには大変だと思い、手を付けていません。takmi さんの姿勢は、素晴らしいと思います。
投稿: たかじん | 2021年4月20日 (火) 20時28分
たかじんさん
いやいや、AUX-0025のクローンを製作・発表された慧眼には
頭が下がります。
D級アンプを自作する人への良き道しるべになっていると確信します。
まだD級アンプは(自作ファンにとっても)発展途上だと思いますので。
投稿: takmi | 2021年4月21日 (水) 00時28分