冴えない特性の伸ばし方!?
さて、試作しているD級アンプの方も特性をいくつか測り始めました。
これまで計測しなかったのは、D級スイッチングのキャリア漏れで歪率計が誤動作して、ちゃんと数値が出なかったからです。AudioPrecisionのAUX-0025 フィルタ特性を模したパッシブフィルタを自作して対処しました。
これが、測定した結果。
最も低いところで0.009%と ずいぶん冴えない結果です。
TIのデータシートによるとPBTL時0.003%くらいまで下がるハズが、歪みが最も低くなる部分で3倍くらい歪みが大きい。。。デス。
実は、この基板の設計方針として、GNDを一筆書きタイプにしていて、
電源の整流回路のGNDからアンプ部->バランス変換->基板入力部->ボリューム->RCA入力端子部まで
GNDを一筆書きのように結んでアンプを組めるようにしています。
ところが、TIのリファレンス基板では、GNDはベタ面で両面の銅箔の余った部分全てをGND面にして埋めています。
試しに1チャンネルのみアンプ部とバランス変換部分のGNDベタを近い部分で繋げて、似た状態にしてみました。
それが、青い線です。
まだTIのデータシートの0.003%には及びませんがとりあえず、底打ち部で2倍の0.006%まで落ちました。
やったぞ!
D級アンプとAB級アンプのGNDの取り方のお作法に違いがあったのかな?。。。なんて思いながらも、よくなった歪率に気分をよくして2チャンネル分同じ処置をして早速聴いてみました。
ん?
んん?
妙に平面的で、淡々と鳴っている。なんかつまらない。
いやいや、明確に歪率が下がっているのだから、色々な曲をかけるとゼッタイ良いところもあるハズだ!
まる2日、色々聴いた結果。。。
よく分からなくなったので、元に戻してみました。
あぁ、これだよ。
躍動感が全然ちがう。一筆書きの方が音が活き活きしている。
今回は、特性に反する方が良い結果になってしまいました。
特性と音の良さが相反するなんてことを書いている記事もよく見かけるので、たまたまそういうこともあるけど、全体的にみるとやっぱり特性がいい方が良いに決まっていると、心の中では思っているので、今回の一件はどうしようかと悩みました。
この歪の成分の80%以上は2次歪で、3~5次歪はそれぞれ0.0006%程度と非常に小さいことを書き加えておきます。
誤解を恐れずに書くと、真空管のシングルアンプの歪み成分の配分に似ているような気がします。
周波数特性
さて、気を取り直して周波数特性です。疑似AUX-0025フィルタは付けず素の特性。
< 8Ω負荷時の周波数特性図 >
カットオフ周波数は55kHz(-3dB)らい。35kHz付近に+3dBほどのピークが出ています。出力にLCフィルタをもつ普通のD級アンプでは避けられない特性です。
< 4Ω負荷時の周波数特性図 >
4Ωでは高域ピークは全く出ません。-3dBは43kHzでした。
SACDの帯域が50kHzで-3dBと規定していることを考えると、まあまあの伸びです。一応、ハイレゾ対応と謳ってもウソにはならないレベルです。
ともに600kHzに出ているピークはD級のスイッチング漏れです。オシロでみると約1Vpp、実効値で0.35Vほどの漏れがあります。周波数的にAMラジオへの混信の可能性がありますね。波形はほぼ正弦波だったので、それ以上の高調波についてはさほど影響は出ないと思われます。
残留ノイズ
残留ノイズは、無音時、ボリュームを絞りきったときのノイズレベルをA-waitかけて測ったものです。A-waitは聴感補正フィルタともいいまして、人に聴こえる周波数特性の感度が元になっています。
残留ノイズ=182uV
という結果になりました。D級アンプとしては、高くもなく低くもないという数値と思います。
能率の良いスピーカーを使えば、静かな部屋でコーンから10cmの距離で「サー」というノイズが聴こえます。私の耳だと30cmでギリギリ聴こえるかどうか。50cm離れれば、ほぼ聴こえなくなるという感じでした。
ちなみに、AB級アンプのVFA-01で初段にバイポーラトランジスタを使うと10uVを切ります。コーンに耳がつく距離でも全くノイズは聴こえません。「カナル型のイヤホンをスピーカー出力端子に接続すると僅かに聴こえる」というのが残留ノイズ10uVです。そこまで低ノイズである必要はないよね。というのが一般的と思います。
最大出力
最後に最大出力です。
思ったよりもBLOCK社のトランスのレギュレーションがよろしくなく、負荷を与えると大幅に電圧が低下してしまうことが分かりました。
8Ω:60W(1kHz 1%歪)
4Ω:100W(同上)
2Ω:155W(同上)
うーん。本当に250VAあるのかな、このトランス。。。
D級アンプが効率が良くて電源負荷が軽いと言われているのは、実は出力が小さい時の話です。
クリップするほど大きな電力を出しているときは、結局、電源部への負担はAB級とさほど変わらず、トランスのレギュレーションがモノを言います。
最大出力時、D級が効率85%、AB級が70%で出力しているとすると
ロス分(発熱分)は15%:30%で2倍違うけど、電力の有効部分は85%:70%で1.21倍の差です。
これが電源への負荷の差ですから、最大出力時に何倍も電源が楽できるということではありません。(音楽ソースを鳴らしているときは小出力なのでとても楽できています)
※)AUX-0025は100kHzから上を落として計器のオートレンジ切り替えが誤動作しないようにする為のフィルタで、80kHz以下の計測に影響を及ぼさない設計がされています。特に可聴帯域内は0.03dBのリップルに抑えてあり、20kHzまでの歪率の測定値にも殆ど影響しないものです。自作したフィルタはそこまでフラットではありませんが誤動作しなくなりました。フィルターのみでの歪率も0.0003%とまずまずの特性です。
にほんブログ村
ブログランキングに参加中です。 めざせ1位!
もしよろしければ「ぽちっと」お願いします。
« Moode Audio R5.2用のSabreberry32ドライバをリリース | トップページ | D級アンプの測定用フィルタを自作してみよう »
「パワーアンプ」カテゴリの記事
- VFA-02 差動2段 準コンプリメンタリアンプ 動作検証(2)(2025.02.13)
- VFA-02 差動2段 準コンプリメンタリアンプ 動作検証(1)(2025.02.10)
- 手ごろなSiC MOSFET、GaN FETを調査(2025.01.26)
- VFA-02 差動2段 準コンプリメンタリアンプ シミュレーション(2025.01.12)
- VFA-02 差動2段 準コンプリメンタリアンプ(2025.01.04)
コメント
« Moode Audio R5.2用のSabreberry32ドライバをリリース | トップページ | D級アンプの測定用フィルタを自作してみよう »
聴感上の音質と特性の一部不一致はオーディオ界最大の迷宮?課題ですね~。
投稿: onajinn | 2019年5月21日 (火) 20時44分
onajinn さん
ですね~ どこかで「歪が低いほど音が悪い」なんてのを読んだことがありましたが、そこまでひどいことは言いたくないですね。
歪率が低くても音の良いアンプもありますし、(半導体アンプよりは歪率がよろしくないだろう)真空管のアンプでも音の良いアンプはあります。
じゃあ、歪率なんか関係ない。。。とも思いたくないです。
ほんと、課題ですね。
投稿: たかじん | 2019年5月21日 (火) 22時07分
2次歪みによる好影響は興味深いテーマです。
私は最近ネルソン パスさん設計のNutubeを使ったプリアンプ(http://www.firstwatt.com/pdf/art_diy_nutube_preamp.pdf)を作りました。
このプリではプレート電圧の設定により2次歪みを調整する事ができます。面白い事を考えますね。
ネルソンさんの実験によれば2次歪みは量の他に位相の正負による影響もあり、負の2次歪みは深いサウンドステージ、正の2次歪みは迫りくる細部、といった傾向があるそうです。
ネルソンさんのこちらも参考になるかもしれません。
http://www.firstwatt.com/pdf/art_h2.pdf
私はこのプリで2次歪みをいろいろ試し、歪みはあるべき!と思うようになりました(笑) 次回作は音質優先でお願いしたいです。
投稿: ヨシダ | 2019年5月22日 (水) 10時27分
ヨシダさん
ネルソンさんが、そんなこともやっていたのですね。知りませんでした。
大変参考になります。
大きすぎる歪は、曲の雰囲気を破壊してしまいますが、少量の歪はアンプの特徴となって、良い意味で色付けになりますね。
H2ハーモニックジェネレータの資料で周波数でかわらず一定の歪率というのはちょっと驚きました。
この辺がヒントになるかもしれませんね。
投稿: たかじん | 2019年5月22日 (水) 22時57分
ここと比べると遥かに良いです。
http://www.op316.com/tubes/lpcd/bt-test-r1.htm
たかじんさんのレベルが高すぎるだけ。
是非、聴感上でよく聞こえるほうにして下さい。
投稿: 小野 | 2019年6月 8日 (土) 08時50分
小野さん
ぺるけさん、いつの間にかBTをやっていたのですね。
確か、ぺるけさんはHP(ヒューレット・パッカード)のオーディオアナライザを使っていたと思います。
HP 8903Bには80kHzと30kHzのLPFが内蔵されているので、それをONにするだけでOKなハズが、わざわざ自作されているのが興味深いですね。
そして、その計測用LPFをつかった状態で聞くというのがなんとも面白いです。測定方法に準じた音で人間も音楽を聴かなければカタログどおりの音になっていないという趣旨なのでしょうか。
歪率や残留ノイズの数値は計測帯域に大きく左右されるため、測定条件をちゃんと書くというのが鉄則ですが、それを書いていないものが散見されるのが現状です。(某技術誌さんの記事でも)
そこに一石を投じたという意味で、大変勉強になりました。
測定帯域とノイズ計測の関係は図にすると分かりやすいので、近い内にまとめてみようかと思います。
それにしても中華BTユニットの歪率、ひどいですね。
投稿: たかじん | 2019年6月 9日 (日) 08時43分