いくつかある低域ブースト回路技術
先日発売になりましたステレオ誌のムック本のスピーカー
MarkAudioの8cmユニット「OM-MF5」です。
<<容積 1.2Lくらいの小形エンクロージャ >>
F特やインピーダンス特性、T/Sパラメータはこちらのブログに掲載されていますね。
fo=124Hzという高さから想像してはいたのですが、やはり低音は少なめです。
ですが、中高域のキレイさ、ひずみ感の少なさはこれまでの付録スピーカーの中で最も良いのではないでしょうか。
このキレイな音を活かしつつも、もっと低音を出したいという欲求がでるのは普通の流れですよね。正攻法は、低音がよくでる大型のエンクロージャーを設計することです。しかし小さい箱でも低音まで伸びた音を楽しみたいという人も多くいると思います。
そんな方々へ、いくつかの低域ブースト回路技術を紹介いたします。
定電流出力アンプ(SPK電流-負帰還)
一般的なアンプは、負荷インピーダンスの値に関係なく一定の電圧になるように増幅しますが、定電流出力アンプは電流が一定になるように出力します。スピーカに流れて帰ってきた電流を検出して負帰還を掛けています。
文章だけではわかりにくいので例を挙げてみます。
一般的な定電圧出力アンプでは
負荷8Ω、出力電圧8V、電流1Aを出しているとき、
負荷を16Ωに変更しても、出力電圧は8Vのままで電流が0.5A になります。
オームの法則そのものですね。
ところが、
定電流出力アンプは
負荷8Ω、出力電圧8V、電流1Aを出しているとき、
負荷16Ωにすると、出力電圧を16Vへ増強し、電流1Aを死守します。
回路はI-V コンバータの逆で、V-I コンバータになります。1V入力で1A出力、2V入力で2A出力になるみたいなイメージです。(入出力の関係ではトランスコンダクタンスアンプともいいます)
さて、バスレフスピーカーのインピーダンス特性を見てみましょう。
< 昨年のOMF800Pのインピーダンス特性 >
バスレフ型は低域の山が2個。その間の谷の部分がバスレフの共振点です。山の高さは規定インピーダンス8Ωの2倍から3倍くらいの高さがありますね。
定電流出力アンプを使うと、この山に自動的に吸い込まれるようにブーストが効きます。山の高さが2倍なら+6dB。山の高さが3倍なら+10dBのブーストです。
しかし、高域でもインピーダンスが上昇するスピーカーでは、高域側にもブーストが機能し、ドンシャリ特性になります。
< 定電流出力アンプのブースト領域 >
バスレフポートの共振周波数はインピーダンスが低いため、ポート共振点では機能しない点は注意。
その代わりといってはなんですが、密閉型のエンクロージャでもばっちりブーストが効くのは優れている部分です。
■欠点
・低域だけではなく高域も勝手にブーストされる(ユニット依存性が激しい)
・アンプ出力端子がOPENになると、電流がながれなくなるため一気にクリップ電圧に達してしまう。
これらの難点があるため、メーカー製のオーディオアンプとしてこの方式が採用されることはまずありません。また、大前提として市販のスピーカー自体も定電圧アンプで駆動したときにバランス良く鳴るように作られています。
アクティブ・サーボ・テクノロジー(SPK電流-正帰還)
ヤマハが開発したアクティブサーボテクノロジー(AST)という負性インピーダンス技術を応用したブーストアンプ回路です。後にYSTという名称に変えています。
定電流出力アンプと同様にスピーカーに流れる電流をフィードバックしますが、検出した電流値を正帰還しています。
電流が流れた分だけ出力電圧を持ち上げて更に電流を流し込むという狂気の正帰還で、インピーダンス8Ωに対して「4Ω」とか「2Ω」に相当する電流を強制的に流し込みます。
正帰還を沢山かける場合は、帯域制限してあげないと発振(発散?)の恐れがあるため、帰還回路のどこかにバンドバスフィルタが必要になることがあります。
< アクティブサーボテクノロジーのブースト領域 >
通常、スピーカに流れる電流はオームの法則のとおり、インピーダンスカーブの山が高いところでは電流が少なく、谷の部分は電流が多くなります。そこにASTをかけると、電流が多く流れるポート共振周波数では強く正帰還がかかり、自動的にポート共振周波数にジャストフィットして出力電圧が上昇します。
例えば、
本来8Ωで8V、1Aのところ、ポート共振周波数のみ4Ω相当(電流2A)にするためには出力電圧が16Vにブーストされます。
2Ω相当(電流4A)なら32V、1Ω相当(電流8A)なら64Vにブーストです。
負性インピーダンス量は自由に設定(設計)できます。
ヤマハでは、この強力なポート共振をエアーウーファーと呼んでいました。
バスレフポートの共振周波数は、通常よりかなり低めの20~30Hzなどに設定し、その部分を強力にドライブすることで、物理的に2wayのスピーカをエアーウーファー込みで実質3wayにできていたという話もあり、とても面白いブースト方式と思います。
■ポート共振周波数でコーンの振幅は少ない
実は、共振周波数では、コーン(力点)の振幅が小さい状態でポート部の空気が大きく振れてくれます。水風船のヨーヨーをイメージすると分かりやすいかもしれません。
ASTは、コーンがあまり振幅しない周波数を狙い撃ちでブーストするため、ボイスコイルが底打ちしにくく、より大音響で低音を鳴らすことができます。(振幅が小さくてもボイスコイルの熱的な限界があるので投入できるパワーには上限があります)
前段ブースト回路
3つ目の方式として、前段に単純なブースト回路を入れて低域を増強する方法もあります。
定電流出力アンプの黄色の部分(低域のみ)とASTのピンクの部分の両方をアンプ前段のイコライザー部でブーストしちゃうのがこのやり方。
< 低域ブースト回路のブースト領域 >
アンプ回路に細工をする特殊な回路技術はありませんが、スピーカの特性を知った上でブースト領域とブースト量を最適化すれば、ばっちし低域をブーストできます。
多くの小型パワードスピーカはこの方式で低音を補っています。低音マニアの私的にはエレキベースのメロディラインに違和感がでなくなるように、最低1オクターブくらいの範囲はブースト帯域が欲しいです。
定電流出力アンプやASTと違い、スピーカのインピーダンスカーブで勝手にブースト周波数が調整されるような事はないのですが、どの周波数をどれだけブーストするのかを自由に設計者が設定できます。
< ディスクリート回路によるアクティブスースター >
2月のOSCにて無料で配ったアクティブブースター基板もこれに相当します。
この例ではポート共振が90Hz程度、低域限界が70~80Hzくらいのスピーカーを無理やり50Hzくらいまで伸ばそうと考えました。 しかし、試聴しながら特性を上下に振ってみると、ブーストのピークを20Hzくらいまで下げた方が「より深い低音」が聴けたのでこういう特性にしました。
現在、この基板を使ってMarkAudioのOM-MF5(一番上の写真のスピーカー)の足りない低音を補っていますが、とてもご機嫌な音を奏でてくれています。
この基板、欲しい人いらっしゃいますか?
色々と手続きなどが必要になり、OSCのように無料頒布とはいきませんが、格安で提供できればと、こっそり考えています。
ではでは、皆様も夏休みのスピーカー工作をお楽しみください。
※1 これらの低域ブースト技術はいわゆるピュアオーディオの精神とは異なります。念のため。
※2 SPK電流をフィードバックしているので電流帰還アンプと書いてしまっている人もいますが、アンプ自体の電流帰還回路技術は別物です。電圧帰還アンプと電流帰還アンプの違いはこちら。 いうなれば(アンプとSPKを合わせたシステムとして)電流帰還システムと呼ぶのが適切な気がします。
※3 常にオームの法則が成り立つため、電流が強化されるということは、出力電圧が上がっている状態のことです。
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コメント
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「この基板、欲しい人いらっしゃいますか?」
←はい、ここにいます(笑)
たかじんさんのツイートを見て、思わず同ユニットを購入してしまい、ちょうどユニバーサル基板でアクティブブースターを組もうかとしていたところですので、頒布いただけると大変助かります。
なお、個人的には、マルチユニットやバスレフのスピーカーではなく、フルレンジ&背面開放型で低域増強をギリギリまでもちあげてやった方が好ましい音になると思っていて、「低域をどうするか」は私も色々情報を追っていましたので、今回の話題はとても参考になりました。
投稿: Kichijo Taro | 2018年7月20日 (金) 07時47分
たかじんさん、どうも
マークオーディオは初めて使いましたが、時々ハッとするような音がでますね。 こりゃフォステックスは比べられちゃうな。
去年のスピーカーより音が大きいんで深夜は大変。
低音は数字の印象よりは出る感じがしますが、付録のMOOKにあるTLSを作ってみたくなりますね。長岡インスパイアモデルは背が高すぎるかな。
投稿: 天 麩羅夫 | 2018年7月20日 (金) 10時18分
こんにちは、オーシャンです
私は
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail_sp.php?code=962840
も頼んでみました
木口を45度カットするなど、かなり凝った作りの様です
いつもの本屋が、今回に限って入荷していないので、慌ててネットで注文しました
スピーカー、箱共にまだ在庫は有りそうですね
投稿: オーシャン | 2018年7月20日 (金) 15時33分
はじめまして
今年、SabreBerry32を購入させて頂き、続けてALX-03基板も購入して2台(4枚)
のパワーアンプを作り先日【製作例】の方にアップさせて頂きました。
出てきた音には大変感激しております。
ですがスピーカーが小型のため、低域不足をどうしようかと悩んでおります。
SBB-II基板が頒布されるのであれば是非作って試してみたいです。
投稿: zion | 2018年7月20日 (金) 22時02分
皆さん、お早いですね〜。
まだ、注文した書店に引き取りにも行ってません。
そうですか、やはり低音が不足するんですか。密閉型エンクロージャーに入れようと思ってるんですが、トーン・コントロールでBASSのブーストが必須かもしれませんね。
投稿: 三毛ランジェロ | 2018年7月20日 (金) 23時05分
たかじんさん、こんばんは。
私もこの基板、頒布されるのであれば欲しいです。
マークオーディオのユニットとボックスは予約注文し、昨日到着しました。
このクラスの口径のユニットを現行1セットしか置くスペースがないという、すぐに聴ける環境ではないのですが、、、
現在使用しているいるもの含め、低域をもう少し補える方法はないか到着前から考え、実現もしていないのに音を想像(妄想)しているところです。
投稿: ターキー | 2018年7月21日 (土) 00時32分
私もマークオーディオのユニットを手に入れました。余っている小型バスレフボックスに入れようかと思っています。
アクティブブースト基板、とても興味があります。頒布、お願いいたします。
投稿: fukushimaのmomo | 2018年7月21日 (土) 06時48分
Kichijo Taroさん
> フルレンジ&背面開放型で低域増強をギリギリまでもちあげてやった方が好ましい音になると思っていて、
平面バッフルのような背面開放は、箱型にはない音の自然さがありますよね。あれ、何なのでしょうか。
天 麩羅夫さん
私もちょっとTLSに興味がでてきました。いちど音を聞いてみたいです。ただ、作るとなるとさすがに大変そう。。。
> マークオーディオは初めて使いましたが、時々ハッとするような音がでますね。
たしかに。 私もそう感じるところがありました。 ステレオ感が良いというか、音にフォーカスがぴたっと合うような空間再現能力があるように思います。
オーシャンさん
あの箱、良さそうですよね。 リブが入っていて強度もある程度補強されていますし。このユニットに合わせて設計されているので安心感もありますね。
投稿: たかじん | 2018年7月21日 (土) 09時01分
zion さん
製作例、ありがとうございます。拝見させて頂きました。 信じられないくらい素晴らしい出来ですね。 こうやって使っていただけると、大変うれしく思います。
三毛ランジェロさん
低音が不足するのは、MarkAudioが意図したよりも小形のエンクロージャに押し込んだ場合の話です。容積でいうと、3~4L以下でしょうか。
上の写真は1Lちょっとの小形エンクロージャです。
トーンコントロールのBASSの帯域がぴったりなら、それで十分ですね。
ターキーさん
> 現在使用しているいるもの含め、低域をもう少し補える方法はないか到着前から考え・・・
低音が聞えるのと、聞えないのとでは、随分と曲の雰囲気が変わるので、小形であっても低音を補えればすごく良く感じると、私も思っています。
fukushimaのmomoさん
余っている箱があればすぐに試せますね。ぜひ聴いてみてください。 中域の音の出方と、ひずみ感の少なさはなかなか良いと私は思います。
ブースト基板の方、みなさまのご要望に沿えるよう頑張りますので、しばらくお待ち下さい。
投稿: たかじん | 2018年7月21日 (土) 09時15分
基板欲しいです
よろしくお願いいたします
投稿: まろん | 2018年7月21日 (土) 17時32分
まろんさん
リクエストありがとうございます。
価格は未定ですが、とりあえず進めさせていただく方向です。
よろしくお願いいたします。
投稿: たかじん | 2018年7月22日 (日) 22時37分