旧来のコンプリMOS-FETと、近代の大電流MOS-FETとの相違点
かつて、サンスイが特別なモデルにのみに使用していたMOS-FETの2SK405/2SJ115のコンプリメンタリペアが、なんと若松通商にて販売していることが分かりました。
<<ネットで拾ってきた2SK405/2SJ115の写真>>
データシートのスペックを見ると、その後継モデルの2SK1529/2SJ200に多くの項目で負けています。 2SK3163/2SJ555は秋月電子で売っている大電流MOS-FETです。
特性比較
ざっと代表的なスペックを比較してみます。
Vds Id Yfs ciss Zo(0.1A) Yfs/ciss
2SK405: 160V 8A 2.0S 430pF 3.2Ω 4.6
2SJ115: -160V 8A 2.0S 800pF 3.2Ω 2.5
------------------------
2SK1529: 180V 10A 4.0S 700pF 1.8Ω 5.7
2SJ200: -180V 10A 4.0S 1300pF 2.0Ω 3.1
------------------------
2SK3163: 60V 75A 80S 7100pF 1.1Ω 11.3
2SJ555: -60V 60A 45S 4100pF 1.3Ω 10.1
100mA時の出力インピーダンスZoはYfs-Idグラフから読み取って算出しました。大きな電流が流せるデバイスほどcissが大きく、高速にはドライブしにくいという特性があります。
こうして表で比較しても、いまひとつ判断に迷いますね。製造年代が20年も違いますから、cissを大きくせずに大電流が流せるデバイスが開発されてきたハズです。
それを分かりやすくするためにYfsをcissで割った数値を最後に加えました。この数値が大きいほど入力容量に対して順方向伝達アドミッタンスが高いことを示します。2SK405/2SJ115と2SK3163/2SJ555では2倍以上の差があります。
MOS-FETを駆動する立場から見ると、入力容量のわりに、大きな電流が流れてくれるということは、負荷として軽いと捉えることもできます。
また、大電流MOSは相互コンダクタンスgmが高いのは事実で、gmが高いほどソースフォロアとして使ったときに出力インピーダンスを下げる効果があります。2SK3163/2SJ555はバイポーラトランジスタに匹敵するほどgmが高い。
DENONは大電流MOSを採用
大電流MOS-FETは、従来のようにコンプリメンタリとしてペアでは作られていません。スイッチング用デバイスとして単独で、とてつもない大電流・低ON抵抗を目指しています。
DENONのUHC-MOSアンプは、大電流MOSの耐圧の低さを克服するためにFETのドレイン側に耐圧の高いトランジスタを挿入してタンデム回路で過電圧が掛からないようにしています。そんな事をしてでも大電流MOSを使うメリットがあったということでしょうね。(現在は、高耐圧MOSを準コンプリでつかっている模様)
電源電圧が±30V以下の小出力アンプ(ノンクリップ8Ω40Wまで)なら複雑怪奇な回路なしでそのまま使えます。
入力容量の大きなデバイスは、小信号レベルで考えると位相遅れが低い周波数で起きることを意味しているので、多量のNFBを掛けにくいと考えられます。ただし、出力インピーダンスがデバイス的に低いので、浅いNFBで済むという部分もあります。
サンスイは古めのコンプリMOSにこだわる
サンスイが2SK405/2SJ115に拘った本当の理由は知らないのですが、最大電流や低インピーダンス駆動などの数値ではなく、音質的に優れた部分があるからだと考えられます。入力容量の小ささや、NchとPchの繋がりの特性がよく歪みが小さい部分を狙っているとも考えられます。
データシートのVgs-Id特性をみると2SK405/2SJ115は、とてもなだらかに立ち上がっているのが判ります。後継品の2SK1529/2SJ200は少し急峻で、2SK3163/2SJ555は縦のスケールが一桁違うので比較しにくいですが、やはり急峻に見えます。
このNchとPch間の繋がり「だけ」を考えるなら旧来のMOSが一番優れているとも言えますね。
日立の2SK1058/2SJ162などのコンプリメンタリMOS-FETは、Q点という温度特性がZEROになるポイントが低いところにあり、そこにアイドリング電流を持っていくことで温度補償をしなくても良い。 なんて話もありました。(実際にはドライバ段などを補正しなければいけないので完全になくす事はできない)
また、旧来のMOS-FETは静電破壊しやすいと言われています。 静電気には十分注意して下さい。(近代MOS-FETはゲートに破壊防止ダイオードが挿入されています。)
まとめ
それぞれにメリット、デメリットがあることが分かりました。 結局は使うユーザが自由に選択すればよいのだと思います。
こんなまとめ、いらねーよ。 と言わずに。。。(笑
MOS-FETは品種によりVgsが違う
MOS-FETは品種によりVgsが大きく違います。
もし、ALX-03基板で旧来のMOS-FETを使うときは、バイアス電圧を決めているR28の抵抗値を調整して下さい。具体的には、現在の6.8kΩを4.7kなどに下げます。いきなり大きな電流が流れると恐いので、最初は低い抵抗値を使い、半固定抵抗を最低(反時計回りに回しきったところ)で電源を投入して、アイドリング電流がゼロならば、半固定抵抗を時計回りにゆっくり回していきます。
時計方向に回しきってもバイアス電圧が足りない時は、R28を少し高いものに交換します。 ここはpinソケットなど使わないで下さい。万一、接触不良などで回路がオープンになると過大なバイアス電圧になり、ヒューズが飛ぶまで電流を流しきるからです。
追記=========================
2SK405/2SJ115を若松通商から購入してみました。
あやぱぱさんの言うようにcissの小ささは、武器になるとも思います。 どんな音がでるのか楽しみです。
でも、2SK3163/2SJ555のエージングが3週間目に突入して、低域の厚みもでてきて、かなり良い雰囲気になってきました。 最初の音は、こりゃダメだなという感じだったのですが、こんなにも変わるものなんですね。(周辺定数やドライバTR交換などいろいろやってるので条件は異なりますが。) 今ではLAPTよりも中高域においては良い面があると感じるほどです。
⇒ こちらに2SK405/2SJ115を使ってみた感想を書きました。
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コメント
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お久しぶりです。
音的にはcissの小さいMOSが圧倒的に良いと思います。
2SJ200のコンプリはLHHのアンプで使ってましたが、1300pはデカすぎでした。800pの2SJ115は超魅力的です!
投稿: あやぱぱ | 2017年12月30日 (土) 07時27分
ドライブの軽さの指標としてYfs/cissは面白い着眼点だと思いますが、こと音質に関してはcissの小ささのファクターが大きいと思います。周波数で効いてきますから。NFBループに入れても大電流MOSはボケボケでヌケの悪い音になると思います。
投稿: あやぱぱ | 2017年12月30日 (土) 07時42分
あやぱぱさん
お久しぶりです。 今年はいろいろとお世話になりました。
確かにcissの小ささで選択というのは一理ありますね。
若松通商は2SK405/2SJ115をどこから仕入れているのか不思議です。 一時期ソニーのV-FETも売っていたらしいです。
随分昔の記憶ですが、UHC-MOSを使ったPMA-2000(もしかしたら IIかも)と、某M社のSA17をショップで比較したら、圧倒的にPMA-2000の方が明瞭でヌケが良くパンチのある音がしていました。
比較対象が悪すぎという話は置いておいて、山水やオンキョーを聞いてもクラスを超えた底力を垣間見た気がしました。残念ながらLHH A700とは比較しなかったと思います。
正直なところ、私もcissの容量の大きさを毛嫌いしてMOS-FET自体を使わなかったのですが、使いこなしているアンプがあるのは気になっていました。
LAPT(特にC2837/A1186)が、あまりに素晴らしいトランジスタであることは周知の事実ですね。
投稿: たかじん | 2017年12月30日 (土) 09時45分
たかじん様
勉強させて頂いています。
この記事に触発されて、初段2SK2145BLのフォールデッドカスコード、終段2SK3163/2SJ555でドライバ段を省略したアンプを製作しています。低ゲイン・狭帯域は承知の上で、たくさん電流を流し、目一杯帰還をかけて数W以下ではまともに鳴らすコンセプトです。
疑問なのですが、高gm素子のFETのVgsはほとんど変化しないので、Cgsのチャージ電流はほぼ流れないのではないでしょうか?
Cgd(Crss)で比較する方が適当と思います。終段ゲインがあるとミラー効果も考慮する必要がありそうです。
投稿: はやたか | 2018年4月27日 (金) 19時08分
はやたかさん
フォールデッドカスコードですか。 初段のドレイン電圧がクランプされて、高域が伸びるので帯域は広いです。 またゲインが1段のみですからNFB量が少なくて発振しにくいという面でも作りやすいともいえます。
ただし、欠点もあります。 電源電圧の影響を受けやすいのと、初段から2段目へと電流が分岐するため電流設定が少々シビアです。最適な抵抗値からずれるとまともに動作しなくなる可能性があります。
シミュレーションで抵抗値を振ってみて動作がどうなるのかを見てみると良いと思います。
FETのゲートチャージ電流の件ですが、カソードフォロアは、ゲインが1倍なのでミラー効果はありません。(容量がゲイン倍されない)
しかし、ご想像のとおりゲートチャージ電流はゼロではありません。 ドライバ段がしっかりしていないと高域が伸びにくくなります。 時折、2段目のハイインピーダンスな励振段に直接MOS-FETをつけている例がありますが、ドライブ能力がたりなくMOS-FETの能力を引き出せていないと考えています。
ですが、それを音作りと言ってしまえばそれまでですし、素子数の少なさからくる音の素直さもあるので、一概に音が悪いとも断言できません。
自作アンプは趣味性が高いですから、色々と作って経験値を積むというのも良いですね。 完成しましたら、ぜひご感想をお聞かせください。
投稿: たかじん | 2018年4月27日 (金) 20時40分
たかじん様
設計ではシミュレーションを使いましたが、フォールデッドカスコードは直流動作さえ合わせればあとは微調整するだけなので、それほど困難はありませんでした。ワイドラーや電流帰還、普通のフォロワ付き出力段のフォールデッドカスコードの回路も書いてみましたが、いずれも超高域特性がけっこうシビアで・・・実装でも変わってきそうですし、オシロスコープなどの機材のない私が組むのは難しいな・・・と。安定そうな回路を選んだ次第です。
とりあえず完成したので音を聞いていますが、いわゆるmosらしい、たなびくような高域と余裕、余韻のある音が出ています。期待通りの音でしたが、期待より現実の方が大げさでした。10kHzで帰還量30dB弱くらいの設定(のはず)なので、そのせいです(苦笑)。あと、ALX-03 x MUSES03 x MOS-FETの記事で触れられている通り、定位感が非凡です。
楽しい音質ですが、エフェクタ一歩手前という気がします。逆に、見た目まともそうな回路でそうなっちゃうのも珍しそうです。
投稿: はやたか | 2018年4月30日 (月) 05時05分
はやたかさん
素晴らしいです。もう完成したのですね。
フォールデッドカスコードはゲインが高くないので発振しにくいですね。
シビアというのは、少し説明がたりませんでした。 限られた電源電圧いっぱいに振幅させようとすると、設定がピンポイントになってしまうという意味でした。
低NFBで開放的な音を楽しむ良さもありますね。
投稿: たかじん | 2018年4月30日 (月) 10時08分
たかじんさん,はじめまして。いつもブログ拝見し,大変勉強になっております。
昔の記事へのコメントで申し訳ないのですが,よろしければ少しお力を貸していただければと思い書き込みさせていただきます。
現在,Auraのプリメイン,VA-150の修理を考えているところです。
最終段のパワートランジスタが故障しており,代替のMOSFETを探しています。
電源電圧は±50V程度で,公称8Ω100Wを2パラレルプッシュプルで実現しているアンプです。
勉強のために鈴木雅臣さんの「続トランジスタ回路の設計」を読んだのですが,それによればB級動作の場合の電力損失は出力の20%程度までとのことでした。
今回は100Wの2パラで,その20%ということで,1石あたり10Wくらいの定格でも問題ないと考え,秋月で購入できる東芝の2SJ380とNECの2SK703ではどうかと考えています。
たかじんさんでしたらこのような組み合わせはどのようにお考えになるでしょうか。
なにぶん初心者でして,判断に迷っております。
大変お忙しいところとは思いますが,お返事いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
投稿: ADNF | 2021年3月 7日 (日) 00時45分
ADNF さん
2SJ380 2SK703は耐圧がギリギリなのと、サイズがTO-220という小ささで、ちょっと心配です。
秋月では売っていませんが、IRFP240PBF IRFP9240PBFはいかがでしょうか?
このペアはオーディオ用としてよく使われますし、いまだ健在なコンプリMOSFETです。
若松通商にて売っています。(若松には他にも色々あります)
MOS-FETは、ゲートの電圧が型番によって少し違うため、アイドリング電流が調整範囲を超えてしまう可能性があるので、そのあたりに注意する必要があります。
投稿: たかじん | 2021年3月 7日 (日) 10時50分
たかじんさん
早速お返事いただきましてありがとうございます。とても勉強になります。
今でもコンプリのMOSFETが作られているというのは知りませんでした。良いパーツを教えていただきありがとうございます。
ゲート電圧についても,ご教示ありがとうございます。こちらもまだまだ勉強中ですが,頑張りたいと思います。
TO-220パッケージなのは私も少し気になっているのですが,実際基板の穴は2.54mm間隔のようです。
このような場合,TO-247は少し足を曲げるような形で取り付ければ問題ないのでしょうか。
あるいは,現状手に入るTO-220で耐圧や定格電力に余裕のある石を探したほうが良いのでしょうか。
ちなみに,私が入手した段階ではIRF540とIRF9541が使われていました(オリジナルは東芝だったらしいので,既に前のオーナーさんが修理されていたようです)。
度々で申し訳ありませんが,お力をいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
投稿: ADNF | 2021年3月 7日 (日) 12時21分
ADNF さん
VA-150に使っている終段がTO-220なのでしょうか?
鈴木正臣さんの本の許容損失について本を読み返していないのですが、デバイスの許容損失に対して20%使用にとどめておくという意味ではないでしょうか。
ディレーティングという余裕度の尺度があり、100%使用すると、壊れてしまうので実用するのであれば余裕を持たせた設計にします。
ドレイン損失Pd=100Wのデバイスをディレーティング50%で使うなら50Wの損失にとどめておく。という意味になります。
ヒートシンクのサイズにもよりますが、パワトラのPc=125Wの場合でB級シングルPPなら、出力70W~75Wあたりで限界になります。
また、ディレーティングは、発熱(損失)に関してだけではなく、電圧や電流に対しても行います。
8Ω100Wクラスなら電源電圧が±50Vほど必要ですが、信号が振幅するので、FETの耐圧は100V品ならディレーティングZEROになり、故障率が高くなります。
最低でも120V品。 できれば150Vくらいのデバイスが欲しいところです。
もし、TO-3PやTO-247が物理的に取り付けられるのでしたら、TO-220に拘らず安心して使えるデバイスを選択するのが良いかと思います。
もうひとつ注意点としては、終段デバイスが破損すると、その前段やゲート抵抗なども道連れにすることが多いので、最終段だけ交換しても治らない可能性があります。
スライダックを使って電圧を徐々に印加していくのがお勧めです。
投稿: たかじん | 2021年3月 7日 (日) 22時45分
たかじんさん
たびたびのお返事ありがとうございます。
ディレーティングの考え方について,勉強になります。
どのくらいの余裕をもたせればいいのかというのが今回最も悩んでいることでしたので,詳しくお教えいただけてよかったです。
サイズ的にはTO-3PやTO-247も取り付けできそうな気がしますので,お教えいただいたIRFP240PBFとIRFP9240PBFを軸に,幅広く使えそうなものを探して行こうと思います。
周囲の部品についてもしっかり調べていく必要がありそうですね。実際ゲート抵抗は一つダメになっているものがありました。先に気づけてよかったです。
個人的なご相談にご親切にアドバイスいただき,大変ありがとうございました。
これからも素敵な基板や記事などを楽しみにしております。
投稿: ADNF | 2021年3月 8日 (月) 22時11分
ADNFさん
コンプリで揃ったMOS-FETは、入手困難になりつつあるので、少し余分に仕入れておくのが良いかもしれません。
VA-150は、デザインがとても良いので、治るといいですね。
こんなに薄いのに100W出るとは驚きです。
終段がTO-220だったとすると、ちょっと余裕の少ない設計だったのかもしれません。
投稿: たかじん | 2021年3月10日 (水) 22時44分