DACのマスタークロックについて ESS社はちょとかわっている?
DACのマスタークロック(システムクロック)についてまとめました。
大別すると「スレーブ」と「マスター」です。 スレーブには「同期」と「非同期」が存在します。
<1>スレーブモード(Sync)
一般的には、DACをスレーブ(Sync)で使うことが殆どです。 というより スレーブモードしかないDAC-ICが多いと言った方が正しいかもしれません。TIのPCM179x、DSD179x、シーラスのCS439x、旭化成のAK449xなども例外ではありません。
発振器(発振源)が2つ付いているのは、44.1kHz系(44.1k、88.2k、176.4k)と48kHz系(48k、96k、192k)のサンプリング周波数の両方に対応するためです。 (PLL等でどちらにも対応できる発振源を搭載することもあります。)
再生する楽曲データのサンプリング周波数に合わせて、どちらか一方をセレクトしてマスタークロック(システムクロック)に使用します。 当然、MCLKは、BCKやLRCKなどと同期している必要があります。
高級機では、発振器をDAC-ICの近くに置いて、MCLKをDACとI2S出力デバイスの双方に送るレイアウトをとることもあります。 その方がジッターが増えずに済むからです。
<2>非同期モード(Async)
スレーブのひとつの形態で、同期していないスレーブモードという感じです。
ESS社のDACは、データシートが公開されていないので不明点が多いのは確かです。 それでも、マニアの方々はよくご存知の非同期モードを搭載しています。 おそらくASRC(非同期サンプリングレートコンバータ)のようなものが内蔵されているのだと思いますが、詳しくはわかりません。 (こちらの資料にはASRCと書かれています。)
図にすると下のような構成になります。
DAC側に、I2Sの入力信号とは関係がない(同期していない)発振源をひとつ持っていて、どのようなサンプリング周波数のデータでも、おかまいなしに受信できる。
ESS社以外でも同様に、非同期クロックで動作するものにマキシムのMAX9850があります。 また、DAC-IC自体にASRCを内蔵していなくても、外部にASRCを付けると他のDACでも同様のことができると思います。 高性能なASRCとしてSRC4192、AD1896、AK4137あたりが有名でしょうか。
DAC-ICにPLLが内蔵されて、BCKからシステムクロックを作り出しているPCM510xやCS4350は、MCLKがなくてもSyncモードで動作しています。
次に、DACをマスターにする使い方です。
<3>マスターモード
これは「送り出しデバイス」と「DAC-IC」の双方が対応していないと接続できない少し特殊なモードです。
有利な点としては、スレーブモード(Syncモード)よりもMCLK、BCKのジッターが少なくなるという部分に尽きます。 同じ発振源を使っていても、バッファーを通したり、基板パターンの引き延ばしにより、数十psオーダーのジッターはすぐに増えます。
ジッタークリーナーを通す場合も、MCLKをクリーニングするのか、BCKをクリーニングするのか、それとも両方をクリーニングする必要があるのか。 LRCKはクリーニングしなくてもよいのか? など、悩みどころがありますね。 それに、ジッタークリーナーは大喰らいなので5Vや3.3V電源の負荷が増えたことにより電源ノイズが増えてしまったり、ジッタークリーナへの配線を引き延ばしてしまって本末転倒なんて事も起こらないとは限りません。
マスターモードなら、水晶発振器自身のジッターのみ。 とてもシンプルです。
RaspberryPiのI2Sはスレーブモードにすることができ、SABRE9018Q2Cはマスターモードを備えていますので、今回はこのモードが使えます。
ということで、試作した新DAC基板で 「非同期モード」 と 「マスターモード」 の2つを聞き比べてみました。 音質的な部分は、正確なことを文章で伝えるのがとても難しいので、あくまでも私、個人の感想と考えてもらえるとたすかります。
■非同期モードの音
暖かさと繊細さをあわせ持っていて、とにかく聴き心地がよい。 普段、聴きなれたソースを再生しても、今まで気づかなかった音が聴こえるので楽しい。
ただし、これは強めのカラーレーションと捉えることもできて、一聴してESS社のDACの音だ。 と分かるような気がする。 特に低音のウォームな音は他社のDACでは聴いたことが無い特徴的な心地よさを感じます。
■マスターモードの音
暖かさと繊細さはあるが、それに加えて鋭さが増す。
特徴的な低音のウォーム感は少し減衰し、ソースの録音の違いがよく出てくるようになる。 また、空間の広さや奥行き感が優秀で、楽器の定位はこちらの方が正確に伝わってくるような気がします。
結局、どちらが良いかというのは好みの問題なのかもしれません。 高級なオーディオとしては音の見通しが良いマスターモードの方が似合っていると思います。
実は、近くのヨドバシカメラの試聴コーナーでONKYOのDP-X1というES9018K2Mを2個積んだプレーヤーを聴きました。 これ、もしかして非同期モードの音? と、知らないデモ曲でも即座に思った次第でございます。
帰宅して、こちらの基板の拡大写真を、さらに拡大してみてみると・・・
ES9018K2Mの近くにクリスタルが1個のみ。 非同期モードを使っているようです。
なるほど。。。 他のES9018K2M搭載モデルも調査してみようと思います。
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細かくはいろいろと仕様があるんですね。
新DAC基板はPLLジッターから解放される期待があってとても楽しみにしています。
投稿: mr_osamin | 2016年2月17日 (水) 13時50分
と、ES9018Sの入力にMCLKが不要な理由がこの解説で理解できました。
なるほど。
投稿: mr_osamin | 2016年2月17日 (水) 14時02分
mr_osamin さん
ですね。 全てのPLLが悪いというわけではないですけどが、追放できたらその方がよいとは思います。 ちなみにジッタークリーナーの類もPLLの一種です。
投稿: たかじん | 2016年2月17日 (水) 20時10分
SONY DAS-703ESを入手しましたが、資料によれば「ジッター追尾型のデジタル用PLLとジッター非追尾型のアナログ用PLL」の2段構成になっているとのことです。
恐らく、後者のPLLが時間軸に対してジッターを最小限にとどめる役割を果たしているような気がします。
30年前からこのような仕組みが実装されているとは驚きです。
投稿: mr_osamin | 2016年2月18日 (木) 10時16分
mr_osamin さん
当時のソニーの製品は、基板パターンや部品にとてもこだわりがあったように思います。 そして2段PLLにしていたとは驚きですね。
その後ツインリンクにして、DAC側のクリスタルにCDトランスポート側を追従させる、上記のマスターモードのようなことをするようになりましたね。 どうしてもSPDIFだと水晶精度までの低ジッターにはできず、そのような根本対策をしたのだと思います。 SPDIFの名称の由来は、ソニー・フィリップス・デジタル・インターフェースですが、高級機ではソニー自ら別の方式に乗り換えてしまったという、いわくつきの転送フォーマットになってしまったのが興味深いです。
とはいえ、DAS-703ESのように電源部、アナログ部、DAC部に相当なお金をかけた製品は、一級の音を出すと思います。 長く使っていければ良いですね。
投稿: たかじん | 2016年2月20日 (土) 00時05分
703ESはそのうち、オーバーホールに出そうと思います。
と、いつまでも古い製品に頼っているわけにもいかないので、いまどきのDACでなんとかこれに匹敵するものが無いかと期待しています。
ただし、超高級品は除くw
投稿: mr_osamin | 2016年2月21日 (日) 15時48分
mr_osamin さん
海外メーカーで150万円とか出すとまた話は別だとは思うけど、25万、30万で703ESのような製品は、今後は難しいと思いますよ。 すごい製品だと思います。
投稿: たかじん | 2016年2月21日 (日) 21時29分
たかじんさん
Panasonicが発表したSL-1200の後継、1200Gは$4,000ですよ。
ありえませーん!
コスト度外視の製品はもう作れない時代なので、仕方ないと思いますがこれでは私のような一般小市民はどうすることもできませんw
投稿: mr_osamin | 2016年2月22日 (月) 11時15分
mr_osamin さん
そんなに高いのですか。
どちらかと言うと、ヤマハのGT-2000のように、ぶ厚くどっしりしている方が憧れましたね。 個人的には。
実はテクニクスのC700シリーズは気になって、お店で試聴してきました。
思ったよりも普通。 というか、デモ曲が3曲しか入っていなくて、正直、よく分からなかったです。
投稿: たかじん | 2016年2月25日 (木) 20時43分
たかじんさん
一説には(どのモデルかわかりませんが)
ONKYOのOEMという話もあり、がっかりです。
もう、自前で作れなくなってしまったのかもしれません。
(不確実な情報ですみません)
投稿: mr_osamin | 2016年2月25日 (木) 22時09分
mr_osamin さん
ONKYOはまだターンテーブルを作っていたのでしょうか。 今時の技術なら、正確にターンテーブルを回すのはそんなに難しくはないと思います。 ただ、トーンアームはノウハウが必要そうですね。
SL-1200は、あれだけ長い間作り続けていたので、もし、そのノウハウの蓄積がなくなってしまったとすると残念ですね。
投稿: たかじん | 2016年2月26日 (金) 22時59分
大変勉強になる記事ありがとうございます。質問よろしいでしょうか。
■dacから出力したmck, bclkとlrckによって、スレーブ側はdataを吐き出す図がありますが、これだと再生側でdataのタイミングが遅れて読み込まれることになりませんか?
■また、その場合は音質に悪影響がないのでしょうか?
現在たかじさん基板+ラズパイから取り出したi2s信号を自作dacに入力して使っており、気になった次第です。
ご回答いただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
投稿: さとう | 2020年8月 5日 (水) 02時11分
さとうさん
DATAは少し遅れますね。
ただ、クロックでラッチされる瞬間に影響を及ぼすほどは遅れていませんので大丈夫です。
http://www.picfun.com/partdigit.html
ここの図のクロックとデータの関係です。専門用語ではクロックエッジの前後でセットアップ時間、ホールド時間と言います。つまりクロックに対してDATAのタイミングは前後にズレが許容できる範囲があるわけです。
セットアップ、ホールド時間が十分でなければ、不安定になりDATA化けがおきます。
投稿: たかじん | 2020年8月 5日 (水) 04時02分