カスコードブートストラップの利点と欠点
アンプの差動回路によく用いられるカスコードブートストラップに欠点はあるのでしょうか?
そもそも、どういう効能があるのか、見ていきましょう。
回路例です。 JFETの差動の上側のNPNトランジスタ2つがカスコードブートストラップと呼ばれる回路です。
カスコードブートストラップは、ドレイン-ソース間を一定の電圧に保ち、トランジスタ(FET)の動作点を完全に固定するので、信号増幅のノンリニア成分が出にくく、歪の発生が抑えられます。また、ゲート-ドレイン間の電圧が殆ど変化しないため、ミラー効果による高域減衰を防ぐ事ができます。
JFETの場合、ドレイン-ソース間電圧(VDS)が高くなるとゲートリーク電流(IGSX)が急激に増えていく特性があるので、VDSを低く(10V以下)して、ゲートリークを減らす意味もあります。
この特性は2SK170のものです。 2VほどVDSがあがると、一桁近くIGSXが増えているのが分かると思います。
特にDCアンプにする場合は、ゲートリーク電流でDCオフセットを発生させてしてしまうので重要なポイントです。
まとめると、
■カスコードブートストラップの利点
1.ミラー効果による高域減衰を防ぐ
2.トランジスタ(FET)の動作点を固定して歪の発生を減らす
3.JFETの場合、VDSを10V以下に制限してゲートリーク電流の増大を防ぐ
しかし、どのような回路にも欠点が存在します。
■カスコードブートストラップの欠点
1.共通エミッタ(共通ソース)に信号以外の電流を加えてしまう。
(上図のR3からツェナーダイオードに流れた電流)
2.カスコードの定電圧回路が発生するノイズが加わる。
3.カスコード回路へ電源リップルが入り込む。
(上図のR3を伝わってくる)
4.信号が通過するトランジスタの数が増える。
5.部品が増えたことによる基板パターンの圧迫。
実は、初段にカスコードブートストラップを使って、ミラー効果による高域減衰を防ぐと言っても、さほど効果を発揮できていません。
非反転増幅でNFBを多量にかけた差動回路のコレクタ電圧(ドレイン電圧)は、カスコード回路を入れなくても、実はあまり振幅していないのです。 カスコードブートストラップを入れて特性を良くしたいなら、2段目の方が効果がでます。(ただし、ブートストラップの電圧分、出力振幅が減ります。)
つまり、利点2と3を得るために、欠点1~5を許容する必要がでてきます。 回路の工夫により、欠点のいくつかは低減させることが出来ますが、完全にゼロにはなりません。 カスコード回路を入れなければ、こういった影響はゼロになります。
これら欠点に対して、VFA-01でどのような対応をしたのかは、また後日。
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コメント
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たかじん先生
いつも判りやすい丁寧な解説、ありがとうございます。「カスコードブートストラップ」、あれっどこかで見たなと思ったら、2013年1月に既に詳しく解説いただいていますね。しかし、「ブートストラップ=ブーツの紐」って妙な用語ですね。VFA-01回路図のC6もブートストラップと呼ばれるようですが、このコンデンサの有無に関するたかじんさんのお考えも是非知りたいです。
ツェナーの雑音、以前、回路掲示板で話題になりましたね。2013年1月の解説では、R3の代わりにCRD、ZDの代わりに抵抗を使用する案が解説されていました。実際のVFA-01回路図において後者を採用されているということは、やはりZDの雑音が気になったということでしょうか。ZDの代わりにLEDを使う事も考えられます。カスコードブートストラップの有無と共に、いろいろと実験する楽しみが増えました。^^ 自作の醍醐味ですね。しかしまあ、たかじんさんの回路構成が多分一番なのでしょう。^^
投稿: kontiki | 2015年12月22日 (火) 23時18分
たかじん様へ
いつも詳細の解説ありがとうございます。
VFA-01の回路図を眺めていて初段のカスコードブートストラップの
バイアス電圧の与え方D50とR50(47KΩ)は定石どおりにVdsを5V以下に
抑えてゲートリークの対策で、D50の定電流回路は電源変動に対する
対策で、ツェナーダイオードやLEDを使わずR50抵抗を使うのはノイズ
対策なのかなあ~(C50はノイズ取り)とかぼんやり考えていたらば
kontikiさんの書込みを見ていたらそういえばどこかで解説していたような
気がして古い資料「実験トランジスタ・アンプ設計講座」の
「第4章 低ひずみ率増幅器の設計(12)」に解説がありました。
D50の定電流回路とC50の0.1UFがないと信号電圧の変動でバイアスが変調
されて高い周波数域で歪率が悪化するのですね。カスコード部分の
バイアスをエミッタホウで駆動する方法をたまに見かけますがこれと
同じ効果なのですね。(ただしこれは複雑になるし発振もしやすい)
なるほど、いろいろ考えるとこの方法が合理的なのですね。
さすが~と思った次第であります。
この辺がディスクリートで回路を構成する奥深さなのですね。
んんんとうなった次第であります。。
投稿: MAKI | 2015年12月23日 (水) 04時35分
kontiki さん
MAKI さん
CRDを使ってもデメリットはあるので、完全な解ではないのです。 結局、どの回路を使うかは設計者の好み、趣味と思います。
LEDは青がノイズが低いといわれています。が、これも品種によるかもしれませんね。
基板パターン、D50,R50,C50があるので、色々試してみて、気に入ったものを使うというのも良いかもしれません。
投稿: たかじん | 2015年12月23日 (水) 09時22分
たかじん様
いつもわかりやすい記事をありがとうございます。
カスコードブートストラップ回路について、分からない点があるのですが、よろしければご教授いただけないでしょうか。
カスコード回路の利点の一つである、ミラー効果を防ぐ特性についてなのですが、
両方共NPNトランジスタの場合で言いますと、下側のVCEが固定されるために、下側のトランジスタでミラー効果が発生しなくなることは理解できます。
一方、上側のトランジスタのついては、上のベースと下のエミッタ間の電位差が一定になるため、上のベースに信号が入力されているのと同じになると思います。
ということは、下のトランジスタのミラー効果は防げても、上のトランジスタのミラー効果は防げていないように見えるのですが、何か勘違いしているのでしょうか?
それとも、上のトランジスタで発生するミラー効果は重要ではなくて、初段のトランジスタで発生するミラー効果を防ぐことが重要なのでしょうか。
この記事では、NFBを掛ける場合の初段に入れるカスコード回路は、ミラー効果を防ぐ効果はあまりないということなので、あまり気にする必要はないのかもしれませんが、よろしければご教授いただけるとありがたく思います。
投稿: mtyk | 2016年9月13日 (火) 22時38分
mtykさん
とても鋭い考察ですね。
トランジスタの増幅動作は、ベース電流(もしくはVbe電圧)が決定権をもつのは、その通りです。
ミラー効果は信号の入力から出力までの増幅率と静電容量(Cob)、そして位相が関係しています。 ベース電圧がほんの僅か上昇すると、コレクタ電圧がえらい勢いで下がってくるため、Cobの容量が見かけ上大きく見えるのです。 シーソーの支点が手前で、Cobをなかなかチャージできないようなイメージです。 増幅率が100倍なら、容量が約100倍に見えます。
一方、カスコードのトランジスタは、ベース接地回路と言って、ベースの電圧が固定されて、エミッタが入力、コレクタが出力になっています。
エミッタ-コレクタ間の静電容量が少ないのと、エミッタ入力とコレクタ出力の電圧の変化が同相なため、ミラー効果は発生しないのです。
https://nw-electric.way-nifty.com/blog/2012/10/post-60a5.html
https://nw-electric.way-nifty.com/blog/2013/01/post-f8b1.html
こちらも参考にどうぞ。
投稿: たかじん | 2016年9月15日 (木) 21時27分