MOSFETを交流スイッチとして使う方法
近年、MOSFETは、増幅用途ではなくスイッチとして使うことが多いです。 スイッチング電源など、高速でON/OFFを繰り返すか、スタティックにON/OFFを制御する用途です。 アンプに使う場合でもソース接地として、電圧増幅には貢献しないことが殆どです。(電圧増幅させるとS/Nがよくない、高域が伸びないなどデメリットが大きい。 D級アンプはスイッチング素子として使用。)
MOSFETを直流ではなく 「交流スイッチ」 として使うには、下図のようにソース同士を接続し向かい合わせるように使います。 なぜなら、ドレイン-ソース間にはダイオードが内蔵されているために、ゲートへ電圧を加えていなくても(D-S間に逆電圧がかかった時)ソースからドレインへ電流が流れてしまうからです。
交流スイッチとして使う場合、この図のAとBに繋いでお互いの内蔵ダイオードで流れてしまう信号を遮断するように接続します。 直流なら、A-C間、もしくはB-C間のみでOKです。 (MOSFETひとつで足りる)
最も注意しなければならない点として、MOSFETの端子間のキャパシタンス(静電容量)が挙げられます。
大電流を流せるMOSFETは、端子間容量が巨大で、IRLB3813も例外ではなく、キャパシタンスがとても大きいです。 ドレイン-ソース間(D<->G<->S含)では、おおよそ1500pFになります。
つまり、スイッチをOFFにしていても、この端子間容量を通じて交流信号は伝わってしまいます。 高い周波数ほど漏れることになるので、高周波スイッチとしては意味をなしません。
交流スイッチといっても大電流MOSFETを使った場合は、低周波信号に限られます。
実際、オーディオ用途として使った場合も、少し音漏れがあります。 正確には計測していませんが、この性質(音漏れ)には目をつぶる必要があります。
IRLB8721というMOSFETでは端子間容量が小さく、音漏れが極小です。しかし、ON抵抗は8.7mΩと僅かに高い。(これでも十分小さいです) デバイス(品種)に依存する部分として「ON抵抗の低さ」か、「音漏れの少なさ」 か、どちらを重視するのか選択しなければなりません。
その他、故障したときに、ショートモードで破壊する可能性があって、その場合、スイッチがONになりっぱなしになります。 (リレーでも固着、溶着があります)
利点としては、ON抵抗の小ささと、接点が傷まない、という事が挙げられると思います。
利点・欠点を理解した上で使う必要があります。
個人的には、リレーの「カチっ」という音がないと、少しさびしい気分です。 が、スピーカー用リレーが入手しにくいという現状では、諦めるしかないのかもしれません。
音質的な観点からすると、MOSFETでもリレーでも新品時には特段の差は感じられないと思います。 少し接点が酸化(劣化)してきたときには、リレーよりMOSFETの方が良くなる可能性が高いように思います。
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コメント
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交流でのFETスイッチの掲載をみて、交流の定電流化は可能でしょうか。直流なら定電流回路は CVCCなどがありますが、交流電源は定電流化を見たことがなく、キャリブレータ(FLUKE 5500Aなど)からの出力(電流源)としてしか見ない気がします。定電流で電流プローブやクランプメータを
ちょっと事前チェックしたいときに使いたいと思いました。
投稿: koichi | 2024年3月18日 (月) 01時42分
koichi さん
定電流出力タイプのアンプがそれですね。
スピーカーは定電圧駆動で評価されるため、定電流駆動するとインピーダンスカーブに影響されてバランスが崩れてしまいますが、クランプメーターの動作確認などには良いですね。
1~2Aくらい、可聴帯域なら難しくないと思いますよ。 出力端がオープンになるとクリップするまで振幅するので、取り扱いには注意が必要とは思います。
投稿: たかじん | 2024年3月19日 (火) 21時31分