POL (Point Of Load)とは
POL(Point Of Load)という電源レイアウトの方法があります。
従来は電源をまとまった場所で定電圧化して、そこから配線やパターンによって使う回路まで届けるという、言わばデリバリーサービスのような方法が主流でした。
少し離れたところで、必要な電圧を作って持って行く。 発熱部をまとめられるので、その部分にだけヒートシンクをつけたり、廃熱穴をあけたりできます。 特にデメリットも感じられません。
ところが十数年ほど前から、料理を作って持ってくるのではなく、その場で調理するケータリングサービスのような手法が出てきました。 材料持参で出向いてきて、その場で作ってくれるので熱々のウチに食べられるというとても贅沢なサービスです。
それが、Point Of Load 。 低い電圧で大電流の電源には欠かせない方式になります。
Pentium 4 のVRMで一躍有名になりました。 俗に言うPen4専用電源コネクタ(12V 4pinのCPU用配線)です。 1.5V 40Aを要求する仕様にはさすがに驚きましたね。
さてPOLには、どんな特徴があるのでしょうか。
POLをweb検索すると、「POLコンバータ」というDC-DCコンバータの説明が多数ヒットします。 POLの考え方はLDOなどのリニアレギュレータにも適用され、DC-DCコンバータに限った話ではありません。
最大のメリットは、電流変動(負荷変動)に強いという点です。
電圧レギュレータはNFBにより出力を監視しながら電圧制御しているために、その電流が変動したときに、配線に抵抗成分やL分があるとディップやうねりが生じてしまいます。 鋭いパルス電流のようなものにも追従できず、デカップリングコンデンサに頼るしかありません。
ところが、POLは負荷のすぐ傍で電圧をレギュレートしているので、電流の変化に対して即座に応答できます。 そのため、無駄に大きなデカップリングコンデンサは要らなくなり、省スペース化にも貢献できます。
ここ数年で流行ってきているローノイズLDOやハイスピード電源の使い方としても、このPOL配置が適しています。
デジタルICは、パルス状に電流を消費をするため、電源に対しパルスノイズを生じさせます。 このパルスノイズは、0.1uFのセラミックコンデンサで大部分を供給することができるのですが、完全ではありません。 一般的なロジックICを数十MHzで駆動させると、0.1uFのセラコン数個では、10mVから100mV程度のパルスノイズが電源に乗ります。 電圧レギュレータに10uVという超ローノイズ品を使ったとしても、配線による供給ではIC側は恩恵を受けにくいのです。
POLでは、セラコンが吸収しきれなかったパルスノイズの残党をNFBにより可能な限り押さえ込むように定電圧動作をします。 これは至近距離で配線による抵抗やリアクタンスが少なく位相遅れが殆ど無いからできる芸当です。 そして、ノイズ発生源から吸収ポイントまでの距離も短く、局所的に抑えられるので不要輻射が減るというメリットもあります。
上の写真は、とあるDAC基板の電源レイアウトです。 典型的なPOL配置なのが分かります。 ローノイズなLDOを使っていますが、デカップリングコンデンサにも大きめな容量のポリマーアルミ固体電解コンデンサと、裏面にはX7Rのセラミックコンデンサを最短で配置しているため、かなりの低ノイズが望めます。 そして、デジタル電源とアナログ電源をフェライトビーズなどで高周波的に切るのではなく、レギュレータごと分けているため、アナログ回路はクリーンな状態を保ちやすい。
シングルレギュレータと、デュアルレギュレータを聴き比べた訳ではありませんが、デジ・アナ独立が悪い方向には行かないと思っています。 このPCM5102AというDAC-ICはデジフィル用クロック(MCK)を内部のPLLで生成するため、デジタル側の電源も可能な限り、クリーンな状態にしておくのが良いと考えています。
POL 頭の片隅においておくと、いざという時に役に立つかもしれません。
その他 参考になる文献:
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「とある基板」ですがそうなっていたんですね。
あの4つのコンデンサの配置は何かあるなとは思っていましたよ。
基板はPICとDACの距離が離れて配置してあり、間に5VとGNDのパターン、コンデンサを並べてブロックって感じなんでしょうね。
ところでPCM1792路線は消えてしまったのでしょうか?
投稿: myu | 2014年2月28日 (金) 00時52分
myuさん
一見、左右で対称っぽいレイアウトになってしまいましたが、デジ・アナ独立なのです。
1792は、CPLDロジックの方に時間がかかるため、少しまとまった時間が必要です。 まだ消えたわけではありませんが、あまり期待しないで下さい。
I/Vも電流帰還タイプだと、あまりにスルーレートが速いため、高周波ノイズごと増幅してしまい、その後のフィルタが簡易的だとノイズが落としきれないというデメリットも出ています。
悩みどころが多いです。
投稿: たかじん | 2014年2月28日 (金) 21時29分
POL…イイですね。
1792も自作ならではのコテコテのPOLを期待しています。
ありふれたチップなので普通に作っても面白くないですよね。特性よりもチャレンジだと思います(笑)
投稿: ま。 | 2014年3月 1日 (土) 08時25分
ま。さん
確かに、各オーディオメーカの高級機に多数PMC1792シリーズが使われているので、同じだと面白みは欠けますよね。
通常POLレイアウトを取る場合は、ケミコンなどは使わず1~2.2uFのセラコンか、10uFくらいのタンタルコンデンサになるのですけど、今回は「アルミ電解」を置けるようにしてあるのがミソです。 220~470uFくらいを挿せます。
アナログのオーディオ信号は、複雑な波形をしていて瞬間的な電流供給能力が必要になることがあります。 コンデンサの種類によって音が変わるというのは、このあたりの違いなのじゃないかと思っています。 連続波であるサイン波計測だと違いは出ないのですけどね。
投稿: たかじん | 2014年3月 1日 (土) 11時45分
POL、・・・・勉強させていただきました。 深謝
この考え方:電力送電網と同じイメージです。
電圧を上げて、電流を抑えて、電磁誘導を、・・・・
私も、オーディオ機器はじめ家電機器に
「省エネ志向している」のは
「大電流が悪さを一杯しますから、・・・。」
・・・・・・・・・・・
高性能のIT制御機器の増加は、
音楽や映画鑑賞に厳しい環境となりました。
投稿: seiji | 2014年3月 7日 (金) 12時29分
seijiさん
一昔前より、スイッチング電源が多くなり、環境としてはノイズだらけになってきていますね。 それでいて電流も多いとなると、とても厄介です。
如何にノイズの混入を防ぐかがキーなのかもしれません。
投稿: たかじん | 2014年3月 7日 (金) 20時12分