差動回路における定電流回路の重要性
定電流回路をいろいろ紹介しましたが、差動アンプにとって定電流回路がどれほど重要なのでしょうか。
今日は、その辺の仕組みなどを解き明かしていきたいと思います。
この図は、差動アンプが非反転増幅回路として動作している時の、各所の電圧波形を現しています。
イマジナリ・ショート(仮想短絡) の記事の通り、差動回路の入力はアンプが正しくリニア動作している状態では+入力と-入力の電圧差は殆どありません。
もう少し詳しく説明しますと、
+入力に上のような波形が入力されると、アンプは非常に高速に増幅して出力します。
その出力がNFB回路を通して、-入力端子へと戻ってきて、結果的に+入力波形をトレースするかのような波形(増幅されている)が出力されていきます。 その状態では-入力端子は+入力端子と殆ど同じ波形が入力されていることになります。
差動部分だけをみると、コレクタ電圧はNFB分圧縮され、さらにアンプが発生した歪成分を足した波形が2段目へと出力されていきます。 上の図では僅かにうねっているように書きましたが実際には殆ど波形は観測できません。 電圧は上側へシフトしています。
次に、差動回路のエミッタの電圧ですが、+側も-側も殆ど同じ波形が入力されているので、Vbe電圧分(約0.6V)だけ低い、入力と同じ波形が現れます。
つまり、入力電圧と同じだけ、定電流回路の印加電圧が変動するということです。
もし、定電圧回路が抵抗だけで構成されていれば、この電圧変動分、電流が変動してしまうことになり、歪が発生してしまいます。 言いかえれば、差動アンプの非反転増幅回路は、印加電圧が変動しても常に一定の電流を流しつづけるような安定した定電流回路のうえに成り立っているといっても過言ではありません。
反転増幅だとこんな感じになります。
差動アンプですので、やはり仮想短絡が成り立ち、入力された信号は、NFBによりほぼ打ち消され、-入力端子の電圧は+入力端子(GNDへ接続)と同等になります。
このように信号は殆ど見えないくらいの値になります。 100dBのNFBが掛かっていれは約10万分の1という値です。
さてさて、差動回路のエミッタの電圧はといいますと、ご想像の通り、GNDから0.6V低い
電圧で、波形は殆ど観測できません。 ということは、定電流回路が抵抗1本という構成でも電流の変動は無いとみなせます。
以上をまとめると、反転増幅回路は、定電流回路にあまり依存しないで動作する。
逆にいうと、定電流回路の出来が良くない場合は、非反転ではなく反転回路で組むと影響が少ないということです。 初期のオペアンプICなどは反転回路で組むほうが音が良いなんて言われているのは、こういう理由からだと思います。
定電流回路の出来が良いと、反転、非反転 どちらの回路で組んでも歪は増えない回路に仕上げることができます。 現代の高精度・高性能オペアンプは、定電流回路も非常に高性能になっていて、わざわざ反転回路でアンプを組むようなことをしなくても良いです。
反転回路でアンプを組むと、入力インピーダンスを高く、かつ、低ノイズに仕上げるのが難しい。
もし入力抵抗の値を高くするとそこでジョンソンノイズが発生し、s/nが悪化してしまうからです。
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