上下対称差動回路(1)
上下で対称に見える回路で、代表的なものとしてダイヤモンドバッファ、上下対称差動回路があげられます。
回路図的に、ではなくデバイスの特性的(動作的)にも本当に上下で対称なのでしょうか。
今日は、そこに焦点をあててみましょう。
回路は、こんな感じ。 上下が揃っていて綺麗ですね。
こちらは、A1015とC1815のコンプリメンタリペアのVbe-Ib特性です。 Vbe-Ic特性の方がわかりやすいのですが、A1015/C1815のデータシートにはこちらしか載っていません。
Ibを単純にhfe倍すればIcとみなすことができると思います。 hfeは大きくバラつくので絶対的な数値より、カーブに注目してください。
黒いグラフはNPN、緑はPNPです。 以下も同様です。 データシートではスケールが違っていて判りにくかったので、画像処理ソフトを使ってスケールを合わせてみました。
こちらは低雑音TRのA970/C2240のVbe-Ic特性です。 NPNとPNPでレンジがだいぶ違うので合成するのに苦労しました。 緑縦軸は2.5mA divです。
通常、アンプとしてリニア動作させるときは、Icは1~5mA程度です。
注意深くグラフを見ないと分りにくいのですが、NPNとPNPの該当するIcでは傾斜がかなり違っていることが見て取れます。
つまり、上下で対称動作させようとしても、入力の電圧に対して出力の増幅度、リニアリティがまるで違っていると言うことです。 また、温度によってVbeのシフト具合が違うのも判ります。 (Vbeが小さい曲線から100度、25度、-25度の3本のグラフとなっています。)
こちらは2SJ74と2SK170のコンプリペア。 J-FETです。 Vgs-Id特性です。
バイポーラトランジスタと比較して、一見、対称性が優れているように見えます。
ところがちゃんと注目すると、例えば、Idss4.1mAの曲線だけをみてみると、NチャネルとPチャネルの交点がセンターではないことに気がつくと思います。 つまりIdssを揃えるとVgsがずれる。 Vgsを揃えようとすると、Idssがずれるということになります。
よくよく見るとカーブの傾斜も違っていることに気が付きます。
どこかで書きましたが、初段のもつ特性で歪が発生する場合はNFBをかけても根本的に解決する事はできません。 (実際には歪は別の理由で減ります)
聴いていて嫌味のない程度の歪の追加なら、そのアンプの音の特徴としてとらえることが出来るとは思います。 それはそれで個性として考えるというであれば良いです。
アンプの歪率として0.01%くらいの数値はいまどき良い方ではありません。 ですが、そういう数値を狙っているときに、上のような初段の動作不整合を許せるのかどうかは、設計者の判断に任されます。
一言でいうならば
上下対称の回路は、回路図的には対称でも
動作は完全な対称にはならない。
ということです。
※)今日は取上げませんでしたが、細かく言うとIc-Vce特性もNPNとPNPで結構違います。
総合的に見て、完全なコンプリメンタリ動作TRでもない限り対称動作というのは期待するだけ無駄です。
今後もそういうデバイスは出てこないでしょう・・・
入手できるトランジスタの種類はむしろ減っていくばかりです。
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B級(AB)動作ならこの説明の通りでしょうが、
初段の差動は普通A級動作なんだから
単純にPNP系とNPN系アンプが2つ並列で動くだけで、
線性特性もPNPとNPNの平均になるだけでは。
金田氏がこの点(AB級部分のパワー段)気にして
完全対称アンプとか言ってたけど、
上條氏にAB級パワー段には局部帰還がかかるので
殆ど線形の伝達特性になるから、PNPとNPNの合成特性
なんか気にする必要はないと論破されてました。
投稿: そうかな? | 2015年8月22日 (土) 18時54分
オーバーオールNFBをかけないで試してみると面白いと思います。 Vbe-Ic曲線の傾きはゲインそのものです。 つまりNPNとPNPではゲインが違うのです。(ついでにコレクタのインピーダンスもことなります)
差動回路の増幅(エミッタ接地)と、出力バッファ段(コレクタ接地/エミフォロ)とでは動作が異なるので、同列では考えないほうが良いかもしれません。
とは言っても、おっしゃる通り、気にするか、気にしないかの問題ですかね。
車の左右のタイヤの銘柄が違っても、気にしないで走ることはできると思いますし、タイヤ径が違っていてもハンドルさばき(オーバーオールNFB)によって、まっすぐ走らせることも、多分できます。
投稿: たかじん | 2015年8月23日 (日) 00時38分