ヘッドホンとスピーカーの違い (2)
昨日のセパレーションとクロストークの違いの件は、ちょっとした冗談なのですが、JEITA 電子情報技術産業協会によると
アンプ セパレーション L-R間
クロストーク セレクタ間
磁気テープ セパレーション L-R間 (3.15kHz 又は1kHz)
クロストーク 往復間 (125Hz)
という使い分けをしていて、JEITAの測定基準に基づいてメーカーはスペックを表記しなければなりません。
ステレオで関連性のある音漏れはセパレーション。
まったく関連性のない音漏れはクロストークと明確に分けて呼んでいるのです。
多チャンネルのミキサーなどは L/Rという区別がないので表記をクロストークに統一しています。
あのカセットデッキ最強と言われたナカミチDRAGONですら、数値上はセパレーション37dB クロストーク60dBです。
私はDRAGONは聴いたことないのですが、ZX-9という同社のデッキも、ものスゴイ音でした。 生録した38リールからダビングしたカセットテープからの音は、遥かにCDを凌駕するものだと思います。 一度もA/D、D/A変換していない良さというのでしょうかね。あの音がセパレーション37dB、S/N70dBだったとは、信じがたいことです。
また話がそれてしまいましたが・・・
脱線ついでに、Linkwitzさんという方をご存知でしょうか。
リンクウィッツ(Linkwitz)さんと言えば、スピーカーのクロスオーバーネットワークを組んだりしている人はご存知の方が多いと思います。完全に平坦な周波数レスポンスと位相の変化も穏やかなスピーカネットワークを30年近く前に発明したことで有名です。
その彼が、40年ほど前にヘッドホンでも自然な音が聞けるようにと Crossfeedという回路を公表しました。 http://www.linkwitzlab.com/headphone-xfeed.htm
簡単に説明すると、この回路は、左右のチャンネルの音を、それぞれCRで帯域制限して反対チャンネルへミックスするという回路となっています。 つまりチャンネルセパレーションを意図的に悪くしているという回路です。
遅延させてミックスしているので、当然、ミックスされた音にはピークやディップが生じてしまいます。 ただ、左右のスピーカーから出力されて左右の耳に届くのと同じ現象を電気信号のまま作っているに過ぎません。
実際のスピーカーから発生する音は、直接耳に届く以外に部屋のあちこちに反射してからも耳に届くため、電気的にミックスするよりずっと複雑になり、結果としてピークやディップは穏やかです。
このあたりは、残響音までシミュレートするようにDSPによって演算した方がよい結果が得られるのかもしれませんが、この妙技、全てパッシブ素子で作っているというのは、さすがLinkwitzさんといったところです。 音質の劣化を最小限に抑えることができるからです。
音速を340m/secとして、左右の耳の間隔を18cmとすると、その差は1/1888 つまり、0.53ms程度の時間差があることになります。
これは、真横からの音で、左右に45度ほどズレた音源からの到達時間は約0.38msとなります。
そのくらい遅延があれば、音圧差がなくても人間は音が左右へズレたところの音だということが認識できるということでもあります。 周波数が低いと位相差があまりないため、方向特定することは難しくなります。
また周波数が高すぎても、1回転以上位相が回ったりするので、判別不能になります。
ピーーー って電子音がどこから聞こえてくるのか分からない・・ってアレですね。
周波数と波長の関係。 ・・・ と、私が実験した感想
1Hz = 340m ・・・ 実験してない
10Hz = 34m ・・・ 聴こえない
500Hz = 1.7m ・・・ 簡単に方向がわかる
5kHz = 6.8cm ・・・ さっぱり方向がわからない もはや耳鳴りのよう
と、意外にも人が音の方向性を判断できる周波数帯域が狭いことに気が付きます。コウモリが超音波で耳をレーダーのように使えるのは、左右の耳の間隔が10mm程度と狭いからでしょうね。
LinkwitzさんのCrossfeedも700Hz以下をミックスしています。 この周波数設定が絶妙なのかもしれません。 方向特定可能な音域の高音側は左右にそのまま残して、それよりも低い部分をミックスしています。 それにより、ヘッドホンで聴いてもスピーカーで聴いているような頭の外に音源があるような自然な臨場感で音を聴くことができると言われています。 聴いてみたいですね。
やはりチャンネルセパレーションは、それなりに重要で、特に100Hz~2kHzあたりの比較的低い周波数での音が漏れないようにするという事が大切なような気がします。そして位相も重要になってきますので、2kHzから上側10倍くらいの高域までも抜かりなくセパレーションを確保したいところです。
まとめ :100Hzから20kHzまでのセパレーションを十分に確保する必要がある。
ということでしょう。
※ 音像定位についての詳細は、エレクトロニクスというより音響工学・脳科学・サイエンス の分野となってきます。 もし興味がございましたら。 「ITD ILD HRTF」などで検索してみてください。
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