初段の設計(4)
前回で、やっと初段の構成が決まりました。
対称差動ではなく、単純な差動1段回路です。
今回はその初段にPNPトランジスタを使うか、NPNトランジスタを使うかを決めたいと思います。
古いトランジスタアンプの回路図を見ると初段はPNPの場合が多いことに気づいた方は、なぜっっと思うかもしれません。
大体1960年代から70年代の初期のトランジスタアンプ(当然ディスクリート)はPNP初段が多いのです。
私も、疑問に思っていたのですが決定的な情報は見つかりません。
当時のトランジスタで、ローノイズ、且つ、高耐圧のトランジスタはPNPしか無かったのではないかと推測しています。
逆に大電流のパワートランジスタはNPNの方しかなく、出力段を準コンプリメンタリという構成で組んでいるアンプが多かったようです。
2SA1015/2SC1815のデータシートにはNFのグラフが載っていないのですが、上位の2SA970/2AC2240のデータシートにはちゃんと載っています。
NFとはノイズフィギュアの略で、どれだけノイズが発生するのかという数値です。 信号源抵抗とコレクタ電流ICによって、ノイズがどれだけ発生するのかが等高線のようにグラフになっています。
こうして比べてみると、特に10Hz側で NF=1dBの領域がPNPの方が広いことが判ります。
潜在的にNPNよりPNPの方がノイズが低いというのを何かの本で読んだことがありますが、その理由を失念してしまいました。 ベース広がり抵抗がPNPの方が小さいとか。。。 そんな感じだったように思います。
特に1/fノイズとも呼ばれるフリッカーノイズはPNPの方が小さいようです。
では、なぜ現代のアンプの初段はNPNが多いのでしょうか。
これも推測の域を脱していないのですが、近年の教科書的な本でNPN初段で説明されているものが多く、何の疑問も持たず、そのまま回路を組んでいった場合、NPNトランジスタがが初段に使われる。(実体験を元にしました。 はい。 私がそうでした。)
NPNの方がアーリー電圧が高く、定電流回路を組んだ時に、よりハイ・インピーダンスにできる。
それにより差動動作がより安定し、特性が良くなる。 NPNで定電流を組むと必然的に差動増幅部もNPNになる。 現在のトランジスタは高耐圧のNPNでも十分にノイズが低いので特に問題はない。 というのが論理的な考え方ではないでしょうか。
アンプ設計者が、ちくいち、どういう理由で回路を組んだのかを説明してくれないので根本的には疑問は解消されませんが、現在ではどちらのトランジスタで組んでも、さほど大きな違いは出ないかもしれません。
FETを使ったアンプの場合だけは、商品の説明でウリになるようで、やれ初段にFETを採用とか、終段とドライバ段にMOS-FETを採用とか、そういうのはカタログでよく見かけます。
終段にMOS-FETを使うとリニアリティは悪化し、巨大なcissの影響がでてしまうので、むしろデメリットになりそうなものですが。。。 宣伝の上手さですね。 値段が高いのは確かですし。
あの高域がやさしくて刺激臭の少ない独特の音も悪くはないです。
話題が逸れてしまいましたが、ヘッドホンアンプくらいでは特に気にしなくてもA1015/C1815なら十分なS/Nが得られると思うので、定電流性を重視して初段はNPNを使用することに決定します。
(S/N比を気にしなければならないのは40dBを超えるようなハイゲインのPA用アンプや
極少信号を増幅するフォノアンプ、マイクアンプくらいです。)
ちなみに、初段にJ-FETを使うメリットは
1.入力インピーダンスを高くできる。 =入力のカップリングコンデンサにフィルム系を使用できる。
2.入力バイアス電流が非常に少ないため、+入力と-入力の抵抗値をアンバランスにしても
出力オフセット電圧が小さい。 = DCアンプにしやすい。
3.初段の電流を増やしてもS/N比が悪化しない。 = 初段電流が多いとスルーレートが高くなる。
など良いことが多いです。 ただし、注意点もあります。
gmの高いJFETは入力容量cissがバイポーラの10倍くらい大きいので、高域が伸びないとか、多量のNFBをかけるときは発振しやすいなどの弊害もでてきます。 その発振を抑えるために1k~4.7kと大きなゲート抵抗を入れるのですが、それにより、更に高域が落ちます。
音質的にはバイポーラ初段の方が明瞭で、はっきり、くっきり、ガツンと鳴り、J-FET初段では一歩引いた空間表現が得意なように思います。
オーケストラや少人数JAZZではJ-FET、ビックバンドJAZZやロック・ポップはバイポーラが得意という感じでしょうか。 あくまでも傾向です。 私感です。
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