出力段の設計(番外編)
HyCAAの方でいろいろ盛り上がりが出てきていますが、こちらも負けずに頑張っていきましょう。
非常に厄介な回路も検証してみます。
2段のインバーテッドダーリントン回路です。
回路図はこんな感じでしょうか。 私も作ったことありません。
この構成ですと、最終段はコレクタ出力となっているのが分かります。 トランジスタの動作としてはエミッタ接地回路になります。
ベースを入力端子とすると、
・エミッターを出力に使う コレクタ接地回路 (エミッタフォロア)
・コレクタ を出力に使う エミッタ接地回路
この2種類しかありません。 3本足なので当然といえば当然なのですが。。。
エミッタ接地の出力インピーダンスは、2段目の出力インピーダンスの計算で使った式
Zo = 1÷hoe で表されます。
データシートで調べるとコレクタ電流IC = 10mAの時には hoe =25~70uSくらいです。
中間をとって40uSで計算すると
Zo = 1÷40u = 25 kΩ
となります。 これが6個あったところで 25k÷6 = 4.2kΩ と非常に出力インピーダンスが高い回路であることが分かります。
これじゃ、ドライバー段のエミッタフォロアの200Ωの方が低く、全く最終段が役に立っていないようにも思えてきますが、実は、ドライバー段の電流ブースターのように動作してくれるので、インピーダンスが高いが、電流は沢山出力できるという回路になります。
また1段分のVbeしかバイアスがいらないため、低電圧な回路で最大限に振幅が取れる点や、Vbeが1段しかないというのは、リニアリティに優れるということにもつながります。
エミッタフォロアーなどのバッファ回路で非直線が出るのはVbeが主な場所だからです。
ドライバー段からすると、外部電流ブースターがついているのでベースへの電流が少なくて済み、より直線性が優れるという特徴があります。 (局部フィードバックが掛かっているという表現が正しい)
この局部フィードバックのおかげで、出力側からみたインピーダンスは小さく見えるはずです。
(いまひとつ計算方法が分かりませんので今回は計算しません。)
こんなに素晴らしい回路なのに、あまり使われていないのにも理由があります。
ダンピングファクタなどの静特性は、NFBにて見かけ上改善できるのですが、実際にスピーカーを駆動した場合には、実インピーダンスの低さが問われますので、商品化するのは勇気と覚悟がいります。
鳴らすスピーカーを選ぶ、いわゆるクセの強いアンプと評されるかもしれません。
また、発振しやすく設計が難しいとも言われています。
現在ONKYOが採用しているインバーテッドダーリントンは3段構成として、最終段はちゃんとエミッタフォロアになっていて、出力インピーダンスは非常に低いです。
ONKYOのwebサイトから抜粋しました。
インバーテッドダーリントンを採用することでプリドライバ段、ドライバ段のリニアリティをあげつつ、最終段のベース電流をたっぷり確保できる構成となっています。 なかなか優れた回路だと思います。
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インバーテッドダーリントンは要は2段増幅で閉ゲイン1倍ですよね
負荷によって開ゲインは変動しますが前段のZout+Rfをループゲインで割ったらZoutでしょうか?
実インピーダンスの低さが重要とは?
多段またぎの負帰還をかけても、いまひとつ音は良くならないということですか?
理由として、過渡応答が悪いと逆起電力がふらふらしてセトリングしないから
とか愚考してみましたが、これは聴かないとわからない領域ですか?
投稿: bitstream | 2012年8月19日 (日) 23時37分
こんにちは bitstream さん
インバーテッドダーリントンの出力インピーダンスの計算方法がいまひとつ分かっていませんので
式に関しても正解かどうかわかりかねますが、帰還によって得られた特性は、オーバーオールでも
局部でも改善はされます。 ただ、オーディオアナライザをつかった静特性の場合の話です。
webや雑誌などでも昔からこの議論は絶えませんから、結論は出ていないのだと思います。
そして、多量のNFBにより特性を重視したアンプ。 NFBを廃したnon-NFBアンプの存在がその
極論だと思うのですが、どちらかに淘汰されていないところを見ると、やはりどちらかが間違っているという
訳ではなく、メーカーの企画者・設計者の思想が見えて面白いところだと感じています。
思想論や哲学ではなく、電気的な現象としましてはスピーカーのコイルから発生する起電力は、
通常のアンプの帯域内に十分収まる低い周波数のものですので、オーバーオールのNFBで打ち消せない
訳がありません。
ぺるけ式のように少量NFB(10dB~20dB程度)の場合は、十分に打ち消すだけの帰還量がないので、そのまま
音に影響が出ると思います。
こういった場合はモロに実インピーダンスが効いてきます。
では、どこまで帰還量が増えると影響がなくなるのかというと、デジタル的に「あり」「なし」ではなく
徐々に減っていくと考えると良いのではないでしょうか。
ですから、出力段もある程度は頑張ってくれと。 そう思うのです。
蛇足ですが、経験上、実インピーダンスが低い方がスピーカを選ばない傾向があるように感じます。
投稿: たかじん | 2012年8月20日 (月) 08時25分
>思想論や哲学ではなく、電気的な現象としましてはスピーカーのコイルから発生する起電力は、
>通常のアンプの帯域内に十分収まる低い周波数のものですので、オーバーオールのNFBで打ち消せない
>訳がありません。
スピーカーを指でつっついたらスピーカーから高周波ノイズがとびだしてきた!
なんてことがあったら恐ろしいですよね。やっぱり愚かものの考えでした。
>ぺるけ式のように少量NFB(10dB~20dB程度)の場合は、十分に打ち消すだけの帰還量がないので、そのまま
>音に影響が出ると思います。
これはわかるのですが、グローバルループのフィードバックをかけて出力インピーダンスを下げるのと
局部負帰還で出力インピーダンスを下げるのはどう違うのでしょうか?
エミッタフォロワも(P-G帰還も)局部負帰還ですから、それも嫌うなら3極管を使うしかないですよね。
初段に外部からのへんてこな電磁波や逆起電力がはいってくるのはよろしくないという意見も聞いたことがありますが…
こういうよくある屁理屈は
たかじん様にとってはさんざんやってきたつまらない議論かもしれませんが
たかじん様の見解をお聞かせ願えませんか。
投稿: bitstream | 2012年8月20日 (月) 12時38分
局部帰還、オーバーオール帰還の件は、なかなか面白い部分だと思います。
どれが正解というのがないので、みなそれぞれの主張があって、ぞれぞれの思想でアンプが出来上がります。
私的には、初段の入力には音楽信号以外は入れない方が良いと考えています。 最近のONKYOでは
デジタル系の高周波パルスノイズが入ってもビートダウンを起こさないようにしているというような
記事があって興味深いです。
理論的には局部でもオーバーオールでもトータルの帰還量が同じであれば同じだけ改善されるとは思います。
あとエミッタフォロアのインピーダンスの低さは帰還によるものではないと考えていますよ。
webで調べると100%帰還なんて言葉が出てきますが・・・
例えば3段ダーリントンではVBEが3段となり、かなりの非直線が現れます。 IC-VBEの裸特性が
そのまま出力にでて、だれも補正していませんので、そのまま3段分のVBE非直線が重なり
相当な歪がでます。 (IC0~10mAくらいが特に非直線が多い)
MOS-FETは更に裸特性が非直線ですので、1段ソースフォロアでも多くの歪が発生します。
つまりエミッタフォロア・ソースフォロア・カソードフォロアは裸特性垂れ流し状態なのです。
そういう歪は終段からの帰還でしか補正出来ないのですが、初段へ戻しても、中段へもどしても
どちらでも良いかと思います。
もちろん、インバーテッド構成で局部帰還をかけて非直線が出にくくするというのもひとつの手段
です。
投稿: たかじん | 2012年8月20日 (月) 18時12分
ありがとうございます。とても勉強になります。
>私的には、初段の入力には音楽信号以外は入れない方が良いと考えています。
やはりここは大きなポイントなのですね。
音も大きく変わりそうですがそれがパフォーマンスの違いからくるのか、それとも…
いわゆる終段無帰還アンプでも、インバーテッドダーリントンとか、アクティブフィードバックやフィードフォワードで歪低減しているものも多いみたいですね。
アクティブフィードバック+逆起電力打消しをグローバルループ内に入れた、とあるアンプも初段にできるだけ戻したくないという意図だと気づきました。
エミッタフォロワについては、機会があればブログ記事で解説していただけたらと思います。
つまみぐいでしか勉強していないので、むずかしくて…
投稿: bitstream | 2012年8月22日 (水) 09時54分
bitstream さん こんにちは
そういえばフィードフォワードやZDRなどの手法もありましたね。
アクティブなフィードバックと言えばコンプリミッターを思い出してしまいました。 いわゆるAGC(Active Gain Control)の
ような機能ですが、状況に応じてフィードバック量を可変してクリップさせないという回路です。
PA用のパワーアンプなんかでは密かに実装されていたりします。 マイクが拾う音には、たまに
強烈な電圧が出てくることがあって、そのまま何もしないと、簡単にアンプ出力がクリップしてしまう
からです。 マイクをぶつけたり落としたり、手で叩いたりと、ステージ上ではなんでもアリですからね。
無帰還アンプは難しいですよ。 かなりデバイスのクセがでますので人によって好みがハッキリと
分かれます。 そのクセを少なくするのに、あれこれと複雑な回路を生み出すのですが、
手を入れすぎると、今度は元の強烈なサウンドが濁ってきたりして、つまらない音になってくる。
onkyoのDIDRCなる回路は、回路図がハッキリとは解らないですが、面白い試みだと思います。
アンプに、音声信号以外が入っても音声信号には影響しないという思想から生まれたもので、
従来の考えを根底から覆すものとなっていますね。
アナログ回路技術に関して、ONKYOは挑戦し続ける姿勢が明確で面白い会社だと思います。
トランジスタの基礎知識については、そのうち何か書こうと思っておりますので、それまでお待ちください。
投稿: たかじん | 2012年8月22日 (水) 12時53分