2SA1358/2SC3421について
2SA1358/2SC3421は、ローコストのドライバ段用コンプリメンタリー トランジスタです。
過去にこのトランジスタを使ったアンプを作りましたが、先輩方が使っていたのでそのまま流用という形でしかありませんでした。 当時は売れ行きが落ち加減でしたので、過去のモデルより高価な部品に変更するのは暗黙のルールでタブーとなっていました。
電気担当者は過去のモデルよりコスト低減が使命であり、それこそが仕事の中心でした。 いかに安く、性能を維持できるかが腕の見せ所というと大げさですが、そんな感じです。
そして、70から80Wクラスのアンプのドライバー段として使えるトランジスタでSA1358/2SC3421以上に安いものがなく、部品選定項目にも挙がらなかったと記憶しています。
ちなみに、こっそりと上位機種のトランジスタとドライバだけ交換して音を聞いたことがありました。 その壮絶な変貌ぶりには驚きを隠せない状況になったので、親しい先輩をこっそり試聴室に呼んで一緒に聴いて議論したりしました。
その後、コストに余裕があるモデルを担当した時は、このトランジスタを真っ先に追放したのは言うまでもありません。
こうして、仕事から離れたところで、再び2SA1358/2SC3421に出会えたのは感慨深いものがありまます。
あんなローコスト版のドライバは自分用では使わないと考えていました。 ですが、ぺるけさんが良く使いこなしていらっしゃることに驚きました。そして感謝しています。 何といいましょうか表現が難しいのですが、あまりストレートに音を出さない代わりに、電源事情とか音源ソースのキツイ響きとかをうまくマスクして、ほんわか、さわやかな音に作り変えて、マイルドで聴き易いアンプに仕上げています。
ちなみに、音が良いとされているトランジスタに交換すると、包み隠さずストレートに表に出してしまうため、使用する電源や定電流回路を見直しなどをしないと、2SA1358/2SC3421の優しく刺激の少ない音を別次元で超えることができません。 また音源ソースにも敏感になってしまうのでMP3などを気楽に楽しめなくなってしまいます。
優良録音のソースの音楽が好きな方は、それで良いと思いますが、残念ながら私は、決して優良録音とは言えない音楽も好んで聴きますので、あまりにシビアになってしまうのはかえって使いにくいと思っています。
優良録音の情報量や空気感、存在感を表現しつつ、適当なMP3音源もそれなりに楽しめるアンプができないものでしょうか。
私が目指すべきポイントはそこら辺にあるような気もしています。
※)私は、あまり沢山のトランジスタを取っ替え引っ替えして聴いたこと
はありません。 当時、部品を取っ替え引っ替えするだけの技術者
を「チェンジニア」なんて呼んでバカにしたりという風潮がありました。
それと設計スケジュールがタイトで、特に問題がない部分、コストダウン
できなくて新規回路になっていない部分には手をつける余裕がな
かったという言い訳を付け加えておきます。
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初めまして。
ディスクリートのヘッドホンアンプについて書いているブログはあまり多くないので参考にさせて頂いています。
私はヘッドホンアンプの自作は好きなのですが、設計やデータシートを見たりするのは苦手なので人様の設計した回路をそのまま作っています。
ところで私が昔購入したtrapeziumというヘッドホンアンプの最終段にこの記事の2sc3421と2sa1358が使われているのですが、これが音質のボトルネックなのではないかと素人なりに勝手に考えています。
そこで自分なりに調べたところ、2sc5171と2sa1930という似た用途のトランジスタがあることが分かりました。ここでお伺いしたいのですが2sc3421と2sa1358の変わりにこのトランジスタをそのまま差しかえる事は可能でしょうか?それともやはり回路の変更が必要でしょうか?
回路は
http://www40.atwiki.jp/dkamp/pages/13.html
ここにあるものと同じだと思います。
本来は自分で研究するべきなのだと思いますが、どうしても苦手なのでもしよろしければ教えてください。
投稿: | 2012年10月14日 (日) 20時06分
こんばんは。
2sc5171/2sa1930へと変更することは可能と思います。
ただし、この回路、最終段のアイドリング電流はどのくらい流れているのでしょうか。
ざっと見たところ、バイアス電圧が足りてなさそうな気配を感じました。
バッテリー式っぽいので、沢山流すとバッテリーの持ちが悪くなりますが、ある程度の音質を
得るには最低でも20mA程度は流した方が良いと考えています。
この回路の場合ですと、R11とR12の抵抗値を少しずつ下げてみてはいかがでしょうか?
10Ωを4.7Ω、3.3Ω、2.2Ωと下げて行き、ほどほどのアイドリング電流と、我慢できる音質へ
なればそこで終了。 1Ω以下は熱暴走の危険があるのでやめておいた方が無難です。
電流の測定方法などわからなければ、またご質問ください。
この電流帰還アンプはそのほかにも突っ込みどころがあって面白いですね。
投稿: たかじん | 2012年10月14日 (日) 21時04分
アドバイスありがとうございます。
アイドリング電流の計測の仕方は分からないのですが、電池の消費電流が25mA程なのでかなり少ないのではないかと思います。
私は室内では据え置きのヘッドホンアンプで聞いているのですが、ポータブルのヘッドホンアンプはやはりどうしても聞き劣りします。オールディスクリートで自作するにもポータブル電源で使える回路が無いのでtrapeziumを購入しました。電池等の関係である程度の割りきりは仕方ないと思いますがアドバイス頂いた通りに少し弄ってみようと思います。
投稿: ゆう | 2012年10月14日 (日) 21時31分
すいません。25mAはただの計測ミスでした。
60mA程です。 失礼しました。
投稿: ゆう | 2012年10月14日 (日) 21時40分
最終段のアイドリング電流の測り方は、最終段のエミッタに入っている抵抗の両端の電圧を測って
計測します。 いわゆるオームの法則で計算して、電圧と抵抗値から電流を割り出します。
例えば、10オームの抵抗の両端で電圧が100mVだったとすると、
I = V÷R = 100mV ÷ 10Ω = 10mA となります。
mV単位を測れるテスターが必要です。
あと、抵抗は並列に接続することで抵抗値を下げることができますから、現在ついている10Ωに
ひとつ10Ωを並列につけると5Ωになり、3並列では3.3Ωになります。
もとの10Ωをはがさずに実験できるのでおススメです。(スペースがあればの話ですが)
投稿: たかじん | 2012年10月14日 (日) 22時42分
ありがとうございます。
昨日、安物テスターで計測したところ40mVしか無かったので本日きちんとしたテスターを買ってきて計測し直した所やはり40mVでした。この値が正しいとすると4mAしか流れていない事になるのですが、きちんと動作しているのでしょうか?
両チャンネルとも同じ値だったので部品の故障では無いと思うのですが、そもそもこういう設計なのか不思議です。
取りあえず10Ωを減らしてみる事を検討してみます。
投稿: ゆう | 2012年10月17日 (水) 21時51分
ゆうさん こんばんは
恐らく、そういう設計だと思います。 動作はしています。 限りなくB級動作に近いAB級です。
前段をいじらない限り40mVは変わらないと思いますので、2.2Ωでは
I = 40mV÷2.2Ω = 18mA
となるかと思います。
電流変化・温度変化とともにVbeも僅かに変化しますが、多分15mA~20mAの間に入るんじゃないでしょうか。
それでも満足のいかない音質でしたら、1Ωですね。
I = 40mV÷1Ω = 40mA
トランジスタが温まるとこの値に近づいていくと思います。 万が一、熱暴走した場合は1.5Ωくらいに
変更する必要があります。
電流帰還アンプは、うまく設計すると、とても良い音がするはずです。
投稿: たかじん | 2012年10月17日 (水) 23時47分
2SA1358/2SC3421の組合せもいいが秋月にはなくなってきているので、2SA1359/2SC3422で試してみたいと思います
投稿: tako | 2021年11月28日 (日) 10時57分
tako さん
ドライバ段のトランジスタはどういう特性だと音にどう影響するのかが、今一つ把握できていません。試してみると良いかと思います。
投稿: たかじん | 2021年11月28日 (日) 21時46分