ダイヤモンドバッファの駆動力
巷で流行っているヘッドホンアンプの出力バッファに、ちょくちょくダイヤモンドバッファと
呼ばれるバッファ回路がつかわれます。
一見すると、最終段のコンプリメンタリ出力のバイアス(Vbe電圧)生成とダーリントン接続による
電流増幅の増大が一度に可能になる、すばらしい回路に思えます。
実際、ダーリントン接続の一種として教科書的なものでも挙げられていたりします。
ダーリントン接続というのは、一段目のエミッター出力が次段のベースに入って、2つのトランジスタが
あたかも増幅率の上がった1つのトランジスタとして動作する回路のことを指すらしいです。
図のQ1、Q2のエミッタに入れてある100Ωは、無くても、ダイオードに置き換わっていても、
回路の動作としては一緒と考えます。 バイアス電圧の作り方がちょっと違っているだけです。
トランジスタひとつひとつに注目すると、コレクタ接地回路であるこが、すぐに判ると思います。
接地というのは、GNDや電源のことを指します。 コレクタがVBへ直結しているので、コレクタ接地です。
(エミッタ接地とベース接地では、接地部に抵抗を入れたりしますので、ぱっと見分かりにくいこともあります。)
バッファなどに使うコレクタ接地は、エミッタフォロアとも言います。
■エミッタフォロア回路の特徴
・入力インピーダンスが高い。
・出力インピーダンスが低い。
・電圧増幅率はほぼ1倍。
ここで、1段目の出力電流を、2段目のベースへ流し込むことが出来れば、電流増幅率は1段目hfe×2段目hfeと
なるのですが、残念なことに、PNPとNPNの極性の違いで、2段目のベースに流しこむ電流は、1段目の負荷抵抗の
1.5kΩの抵抗からの供給となっています。
とても大雑把に言いますと、1段目は単にレベルシフタとしてしか機能していない。
2段目をドライブしているのはアクティブ素子というより、単なる抵抗(パッシブ素子)に近い状態。
ダイヤモンドバッファの駆動力は、2段目のトランジスタのhfeと、1段目の負荷抵抗の値で決まってしまいそうです。
ヘッドホンアンプ用で言えばICが500mA以上で、なるべくhfeの大きい種類ランクを選べばよいということになります。
もう少し、追ってみましょう。
■1段目
1段目の負荷抵抗は、小さくし過ぎると1段目の負荷が重くなり直線性が悪くなってしまいます。
ですので、抵抗値は高いほうが良いでしょう。
そうすることで、入力インピーダンスも高くできて、初段差動回路での歪み発生を最小限に抑えることができます。
■2段目
2段目にとって1段目の負荷抵抗値はIb(ベース電流)の供給元であります。
抵抗値が高いと十分なIbがとれず、出力に非直線成分が出てしまいます。
つまり2段目にとっては、抵抗値は小さいほうがよいという事になります。
■総合的にみると
1段目の負荷抵抗は、高すぎても低すぎても良くない。 バランスが大切ということになります。
最良の妥協点を見つける作業となりますね。
ちなみに、負荷抵抗を定電流回路に置き換えて、十分な電流と高いインピーダンスを両立することも可能ですが、
有効な振幅電圧が減ってしまいますので、今回のような12V単電源には向きません。
ぺるけさんのHPAは、負荷抵抗を割りと小さめにしてあり、最終段のIb不足にはならないように設計されています。
以上をまとめると、ダイヤモンドバッファの駆動力は、2段ダーリントンとしての駆動力はなく、
1段コンプリメンタリバッファと同等の駆動力といえます。
ただし、入力インピーダンスは、相当に高く、前段に与える負荷はとても軽いです。
初段の差動回路での歪み発生を極力少なくする設計と思います。
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